ImmunoTox Letter

シリーズ「免疫毒性研究の若い力」18
薬物特異性肝障害と免疫との関連

高玉瑩(千葉大学大学院 医学薬学府 生物薬剤学研究室)

 

 この度、日本免疫毒性学会ImmunoTox Letterでの執筆の機会を与えて頂きましたことに、厚く御礼申し上げます。

 私は2011年から2015年まで四川大学製薬工学科で勉強し、2017年千葉大学大学院の修士課程に入学しました。私が所属している生物薬剤学研究室では、医薬品やその候補化合物の副作用作用発現機序の解明と前臨床予測法の構築を目的とした研究をしています。肝臓は医薬品の代謝、排泄などの主な臓器ですが、薬物自体または代謝過程で生じる不安定な代謝物は、蛋白質と結合することで最終的に免疫系を活性化し、薬剤性肝障害(Drug-induced liver injury : DILI)の誘発に関わると考えられています。DILIは中毒性のものと特異体質性のものに分類され、私は「免疫」が関与する薬物毒性について興味を持っているので、実験室に入ってから、教授の指導のもとで、免疫が関与する特異体質性肝障害の検討を始めました。今回初めて免疫関連の学会に参加して、有益なご指導を先生方から賜ることができました。今後も免疫に関与する研究を努力していきます。拙文ではございますが、今回発表した内容に関しましてご紹介させていただきます。

 フルクロキサシリン(flucloxacillin : FLUX)は、β-ラクタム系抗生物質であり、ヨーロッパとオーストラリアでブドウ球菌感染症の治療に広く用いられています。これまでに、ヒト白血球抗原(HLA)の個人差が、FLUXによる肝障害発症と有意に関連することが報告されています(Daly et al., Nat Genet, 2009)。しかし、この遺伝子多型を持っていても必ずしも肝障害を発症するとは限らず、また持たない人でもごく稀に発症することなどから、FLUX による肝障害発症の詳細なメカニズムは未だ不明でした。そこで、FLUXによる肝障害を評価するためマウスを用いた検討を行いました。

 当研究室では以前、HLA-B*57:01トランスジェニックマウスを作製し、ここにCpG-ODN (TLR9リガンド)とアバカビルを併用することでアバカビルによる肝障害が再現できることを報告しました(Song, et al., Toxicol Sci, 2018)。同マウスでFLUXによる肝障害を検討しましたが、FLUX単独あるいはCpG-ODNとの併用によっても特異的な免疫応答を介した肝障害は認められませんでした。一方、一連の検討の中で、CpG-ODNとFLUXを併用すると、HLA多型の導入有無に関わらず血清ALTレベルが一過性に増加すること、および肝臓切片のHE染色においてアポトーシス小体が観察されました。このとき、肝単核細胞中のCD4 T細胞とCD8 T細胞の割合は変化しませんでしたが、不変NKT ( iNKT )細胞のTCR mRNA ( Vα14-Jα18 )の発現上昇が確認され、さらに、NKT細胞表面のFasリガンドと肝細胞表面のFasの上昇が確認されました。また、Fas/FasLアポトーシス経路に異常を持つgld/gldマウスでは、FLUXとCpG-ODNを併用してもALT上昇を認めませんでした。これらから、CpG-ODNがNKT細胞と肝細胞のFasL/Fasを介したアポトーシス経路を活性化し、FLUXによる肝細胞死を促進していることが示唆されました。今回見いだしたマウスモデルはFLUXによる肝障害発症メカニズムの一端を解明するために有用と考えています。

 最後に、本研究に取り組むにあたりご指導頂いた伊藤晃成教授、青木重樹助教、並びに博士課程の宋彬彬氏、そして本学会においてご指導いただいた諸先生方に厚く御礼を申上げると共に、今後ともご指導·ご鞭撻を賜りますよう何卒よろしくお願い申し上げます。

高玉瑩先生
高玉瑩先生