ImmunoTox Letter

第24回学術年会学生・若手優秀発表賞
Isocyanatesにおける各種代替法の組み合わせによる皮膚感作性評価とLocal Lymph Node Assayの比較

大竹 利幸
一般財団法人化学物質評価研究機構
(CERI)

大竹 利幸先生
大竹 利幸先生
 

 このたび、第24回日本免疫毒性学会学術年会において学生・若手優秀発表賞を賜り、誠にありがとうございます。審査委員の先生方に厚く御礼を申し上げます。私は、大阪大学大学院工学研究科修士課程では代謝産物の網羅的解析であるメタボロミクス分野の研究室に所属し、「Metabolomics-driven approach to solving a CoA imbalance for improved 1-butanol production in Escherichia coli」という研究課題に取り組んでおりました。2016年にCERIに入構してからは免疫毒性の分野に携わることになり、初めての口頭発表ではありましたが、本賞を受賞することができ、大変光栄に存じます。それでは、簡単ではございますが、私の研究課題についてご紹介させていただきます。

【背景・目的】
 従来、皮膚感作性の評価にはin vivo試験、例えばモルモットを用いたGuinea Pig Maximization Test(GPMT)やマウスを用いたLocal Lymph Node Assay(LLNA)などの動物実験が行われてきました。しかし、近年は、動物福祉の観点から動物実験に対する規制が厳しくなっているため、動物を用いない代替試験法が注目されています。経済協力開発機構(Organisation for Economic Co-operation and Development、OECD)がまとめた皮膚感作のAdverse Outcome Pathway(AOP、化学物質へのばく露から毒性影響が現れるまでの過程)では、化学物質による皮膚感作性はKey event(KE)1:タンパク質との結合、KE2:ケラチノサイト活性化、KE3:樹状細胞活性化及びKE4:リンパ節におけるT細胞活性化、の4つのKEからなるとされています1。OECDでガイドライン化された動物を用いない代替試験法には、KE1に着目したin chemico Direct Peptide Reactivity Assay(DPRA)、KE2に着目したin vitro ARE-Nrf2 Luciferase Test Method(KeratinoSensTM)、KE3に着目したin vitro human Cell Line Activation Test(h-CLAT)があります。しかし、各種代替試験法はAOPの一部しか評価できていないことから動物実験を完全に代替することは難しく、複数の代替試験法を組み合わせた統合試験体系が必要であるとされています。ポリウレタンの原料であるイソシアネート類は、NCO基を有する反応性が非常に高い化合物群であり、職業性アレルギーの原因物質の一つとして知られていますが2、リスク評価において重要な有害性の一つである皮膚感作性に関して、定量的に評価した報告例が少ないのが現状です。そこで本研究では、LLNAを用いてイソシアネート類の皮膚感作性強度を定量的に評価しました。さらに、動物を用いない各種代替試験法の組み合わせ評価結果と比較することで、イソシアネート類に対する代替法の適用性を検討しました。

【方法】
 工業的に主要な9種のイソシアネート類(toluene 2,4-diisocyanate、methylenediphenyl 4,4'-diisocyanate、hexamethylene diisocyanate、isophorone diisocyanate、1,5-diisocyanatonaphthalene、m-xylylene diisocyanate、dicyclohexylmethane 4,4'-diisocyanate、2-isocyanatoethyl acrylate及び2-isocyanatoethyl methacrylate)の皮膚感作性を、Takenouchiらの方法3を参考にDerek Nexus、DPRA(OECD TG442C)及びh-CLAT(OECD TG442E)を組み合わせたIntegrated Testing Strategy(ITS)を用いて評価し、LLNA(OECD TG429)と比較しました。

【結果・考察】
 9種のイソシアネート化合物は全てLLNAで陽性と判定され、感作性強度はExtremeに分類されました。同様に、Derek Nexus及びDPRAにおいても9種全てが陽性と判定されました。一方、h-CLATに関しては、媒体に溶解せず実施不能であった1,5-diisocyanatonaphthaleneを除く8種のうち7 種が陽性と判定されましたが、hexamethylene diisocyanate(HDI)は陰性と判定されました。イソシアネート基は-NH2や-SHなどの官能基との反応性が高いため、培地中のタンパク質との反応によりばく露濃度が減少したことが、HDIが陰性と判定された原因と考えられました。このため、無血清培地を用いてHDIを評価したところ、陽性と判定されたことから、偽陰性の原因がイソシアネートと培地中のタンパク質との反応にあることが示唆されました。ITSによる定性判定結果は9種全て陽性であり、LLNAの結果と全て一致しましたが、皮膚感作性強度判定においては、LLNAでExtremeに分類されたイソシアネート化合物はdicyclohexylmethane 4,4-diisocyanateのみStrongに分類され、その他8種はWeakに分類されました。イソシアネート化合物のITSによる感作性強度判定での過小評価は実験にタンパク質含有培地を使用するh-CLATにおいて細胞にばく露されるイソシアネートが培地中の水及びタンパク質との反応により減少したことに起因するものと考えられました。
 以上のことから、反応性が高い物質をin vitro試験を含むITSに適用する場合には感作性強度結果の解釈に注意を要することが示唆されました。
 本研究成果は既に論文として纏められ学術雑誌(Toxicology)に受理されています。
Ohtake, T., Maeda, Y., Hayashi, T., Yamanaka, H., Nakai, M., Takeyoshi, M., 2018. Applicability of an Integrated Testing Strategy consisting of in silico, in chemico and in vitro assays for evaluating the skin sensitization potencies of isocyanates. Toxicology 393, 9-14.
 最後に、本研究を遂行するにあたり、御協力いただきましたCERIの共同研究者の皆様にこの場を借りて深く御礼申し上げます。

参考文献

  1. OECD, 2012. Series on Testing and Assessment No.168 Part 1.
  2. Redlich, C. A. Skin exposure and asthma: is there a connection? Proc. Am. Thorac. Soc. 7, 134–137 (2010).
  3. Takenouchi, O. et al. Test battery with the human cell line activation test, direct peptide reactivity assay and DEREK based on a 139 chemical data set for predicting skin sensitizing potential and potency of chemicals. J. Appl. Toxicol. 35, 1318–1332 (2015).