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学生若手優秀賞
多層カーボンナノチューブ13週間
全身吸入曝露における雌雄ラットの
脾臓中ケモカインによる炎症反応の検討
木戸 尊將
(東京慈恵会医科大学環境保健医学講座)

 この度、第20回日本免疫毒性学会において学生若手優秀賞を賜り、誠に有難う御座います。審査委員の先生方に厚く御礼を申し上げると共に、これからもこの学会を通じて免疫毒性学の勉強に励みたいと思います。今後とも、ご指導の程よろしくお願い申し上げます。

 受賞を頂きました研究内容致しましては、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)の全身曝露に対する免疫毒性的側面からの研究を行いました。MWCNTは様々な用途で使用されております。MWCNTはアスベストと類似する繊維状構造をとり、アスベストと同様の健康影響が懸念されます。アスベストの免疫系を介した毒性影響については本学会の先生方から多く報告がありますが、MWCNTの毒性機序、特に免疫部分についての論文は多くありません。また、ナノ粒子を動物へ曝露する方法も検討しなければなりません。そこで我々は、日本バイオアッセイ研究センターで開発したMWCNT曝露装置(サイクロンエアーシーブ方式)と全身曝露チャンバーによる曝露を適切なものとして研究を進めています。この全身曝露チャンバーはより作業従事者に近い環境での生体影響を探ることができます(Kasai et al., 2013)。本研究では、ラットにMWCNTを13週間全身曝露して、脾臓中マクロファージ及びTリンパ球から産生されるサイトカイン及びケモカインのmRNA発現を測定し、MWCNTの吸入曝露による免疫毒性機序を解明するために研究を行いました。

 雌雄のF344ラットにMWCNTを0 、0.2、1 及び5 mg/m3の気中濃度で13週間曝露した後、雌雄ラットの脾臓からマクロファージとTリンパ球を抽出し、リアルタイムPCRを用いてマクロファージはIL-1β, IL-6, IL-10, TNF-α, MCP-1, MIP-1α、Tリンパ球はIL-2, TGF-β1のmRNAの発現を測定しました。

 結果としてマクロファージについては、雌では、5 mg/m3群でIL-1β及びMIP-1αのmRNA発現が対照群より有意に高値であり、IL-6及びIL-10でも0.2mg/m3と5 mg/m3が有意に高くなりました。TNF-αには有意性はみられませんでしたが、対照群よりも高値でした。また、雄のMWCNT曝露群では、有意水準までは達しなかったものの対照群と比べてIL-1β, IL-6及び TNF-αのmRNA発現が高値でした。脾臓中Tリンパ球のサイトカインのmRNA発現については、雌雄共にIL-2が0.2mg/m3以上の曝露群で有意に低値となりました。

 以上よりMWCNTの13週間全身曝露によって脾臓中マクロファージにおいて炎症性サイトカインのmRNA発現が増大することが示されました。この曝露群については病理組織学的検査において5 mg/m3群において脾臓中にMWCNTが確認されています。このことについては二つのメカニズムを考えております。一つ目は、肺に入ったMWCNTを肺胞マクロファージが取り込み、炎症系サイトカインを産生すると共に、ケモカインMIP-1αが血行性又はリンパ行性によって脾臓まで運ばれ、脾臓でも炎症系サイトカインを産生した可能性です。もう一つは、肺胞から取り込まれたMWCNTが血管を通じて脾臓まで達し、脾臓のマクロファージが炎症系サイトカインを産生した可能性です。Tリンパ球の結果については、IL-2のmRNA発現が低値であった場合、腫瘍を殺傷するLAK細胞及びNK細胞の誘導作用が低下することが知られていますので、MWCNT曝露により腫瘍に対する抵抗性が低くなる可能性があります。

 以上が本研究の内容でございます。まだ、課題の多い研究ではございますが免疫毒性を介した健康影響を解明するためにも研究に精進していく次第でございます。

 最後になりますが、本研究を実施するにあたり、御協力・御助言を下さいました日本バイオアッセイ研究所所長 福島昭治先生、吸入試験室室長 笠井辰也先生をはじめ研究所の多くの先生方に厚く御礼を申しあげると共に、私に知識と技術を授けて下さいました、東京慈恵会医科大学環境保健医学講座 教授 柳澤裕之先生、北里大学医学部衛生学 准教授 角田正史先生に厚く御礼を申し上げます。
 
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