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学生若手優秀賞
ヒ素が誘導するsenescenceへのp130の関与
岡村 和幸
(筑波大学大学院 生命環境科学研究科 持続環境学専攻2 年次・
連携大学院 国立環境研究所 環境健康研究センター
分子毒性機構研究室)

 この度は、学生若手優秀賞を受賞させて頂きまして誠に有難うございます。まだまだ諸先生方と比べてヒヨっ子の私ではありますが、今回は受賞させて頂きました「ヒ素が誘導するsenescenceへのp130の関与」と題した研究内容を紹介させて頂きます。

 私たちが研究対象としております無機ヒ素は、主に地下水中に存在し、それを飲料水とする国や地域で慢性ヒ素中毒による被害が広がっております。被害者数は世界で5000万人以上にも上り、症状としては皮膚の角化症や色素脱色、皮膚・肺・肝臓・前立腺でのがん、免疫抑制などが知られております。私たちはヒ素が及ぼす作用の中で特に免疫抑制に着目し、マウスBリンパ腫細胞株A20細胞を用いて研究をしています。

 我たちはこれまでにA20細胞に亜ヒ酸ナトリウム(ヒ素)10 μMを長期間( 8 日、14日)曝露することによって、細胞が不可逆的な細胞増殖抑制であるsenescenceの状態になることを明らかにしました。これがヒ素曝露による免疫抑制の一因となると考え、本研究ではヒ素によって誘導されるsenescenceのメカニズムを解明することを目的としました。ヒ素が活性酸素種を誘導することによって酸化ストレスを引き起こすこと、および酸化ストレスによってsenescenceが誘導されることが報告されていることから、ヒ素が誘導する免疫細胞のsenescenceも酸化ストレスが主たる要因であるか検討を行いました。酸化ストレスを誘導する物質としてH2O2を用い、A20細胞をH2O2 100 μMを添加した培地で5 日間培養を行いました。その結果、H2O2曝露でもsenescenceの特徴は観察されましたが、細胞周期が長期ヒ素曝露では主にG0/G1arrestが生じたのに対し、H2O2曝露では主にG2/M arrestが生じました。このことからヒ素とH2O2では異なったメカニズムが働くことが示唆されました。次にヒ素24時間曝露で増加していたG0/G1 arrestに関与するp130タンパク質量を検討した結果、長期ヒ素曝露でp130のタンパク質量が著しく増加し、一方でH2O2曝露ではp130のタンパク質量は検出されませんでした。さらにp130がヒ素曝露によるG0/G1 arrestに関連することを明らかにするために siRNAによるノックダウンを行った結果、p130をノックダウンすることで、ヒ素曝露によるG0/G1 arrestが減弱されることが明らかとなりました。以上の結果より、ヒ素長期曝露によるA20細胞のsenescenceはG0/G1 arrestが主要な役割を果たしており、著しく増加したp130がその制御に関与することが示唆されました。

 私は2010年に本学会で学生賞を頂きましたが、今回も賞を受賞させて頂いたことで、より一層頑張らなくてはと、非常に身が引き締まる思いです。メカニズムを明らかにするということは、生体影響への正しい理解や治療法の開発につながる非常に重要なことであると考えるので、今後さらなる努力をしていきたいと考えております。最後になりましたが、指導して下さった野原恵子先生、選んで下さった先生方、免疫毒性学会の諸先生方に改めて感謝申し上げます。この度は本当にありがとうございました。皆様今度ともご指導ご鞭撻の程よろしくお願い申し上げます。
 
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