ImmunoTox Letter

第24回日本免疫毒性学会学術年会報告

中村 和市
北里大学獣医学部

 

 この度、皆様方のご支援、ご協力のおかげを持ちまして、第24回日本免疫毒性学会学術年会を無事開催、閉幕させていただくことができました。運営面では、熱意ばかりが先走りご不便をおかけしたことも多々あったかと存じます。この場をお借りして、お詫び申し上げます。

 さて、本学術年会のテーマを『「免疫亢進」と「免疫抑制」の新たな考え方』といたしましたが、このテーマのもとに年会では特異体質性薬物性肝障害、自己免疫、バイオ医薬品による免疫賦活、アレルギーの誘導に関する議論が多くなされました。従来の免疫毒性学の主要課題であった「免疫抑制」からの転換が感じとれました。さらに生理的な免疫寛容状態とも言える妊娠の免疫学的機構についても取り上げ、今後の免疫毒性学の一方向性を示せたものと思っております。

 一方で、免疫毒性学の成り立ちと基礎を抑えておくことは重要であると考えました。そこで、本学術年会開催にあたりましてDr. Jack H. Dean(University of Arizona)に基調講演をお願いいたしました。これまで、日本免疫毒性研究会・学会にDr. Josef G. VosとDr. Michael I. Lusterは招聘されたことはありましたが、同じく免疫毒性学の基礎を築かれたDr. Jack L. Deanが登場したことがなかったことについて私自身非常に残念に思っておりました。米国トキシコロジー学会が作成したEminent Toxicologist Lecture Seriesから、同学会から許可を得てのビデオ出演を実現いたしました。Dr. Jack L. Deanには、ご自身を置いてできない“Immunotoxicology: A historical Perspective”についてご講演をいただきました。ここに、ようやく彼の名が日本免疫毒性学会の歴史に刻まれたことは私の大きな喜びであり誇りであります。

 Dr. Danuta Herzyk(Merck & Co.)がこれまでの当学会に招聘されたことがなかったことも、ある意味、私にとっては幸運でした。米国トキシコロジー学会の免疫毒性専門部会(ITSS)との連携プロジェクトとして実現したものですが、年会長として特別講演をお願いすることができたのは光栄でした。私も製薬企業に勤務しておりましたので、彼女とは免疫毒性学に対する立ち位置について多くの点を共有いたしております。私をある成書の共著にお誘いいただいたこともあります。しっかりとした免疫毒性学の基礎を持たれ、今は実験現場からは退かれたものの、データを基に議論できるかたでありました。今回の“Immunotoxicity Assessment of Biopharmaceuticals”のご講演に際しても、多くの質問を受け議論に臨まれました。

 今回の学術年会では、「特異体質性薬物性肝障害の免疫学的機序」について、横井 毅 先生(名古屋大学)の特別講演を実現できました。横井先生は、今や数多くの学会などから特別講演の招聘を受けておられますが、私が今回の特別講演をお願いさせていただいたのは約2年前のことであったように記憶をいたしております。動物モデルで、特異体質性薬物性肝障害におけるクッパー細胞のTLR4およびTh17細胞の関与についてお話いただきました。 “Idiosyncratic”というブラックボックスに免疫毒性学的観点から光を当てていただき、当学会に大きなインパクトをお与えいただきました。

 南谷武春先生(医薬基盤・健康・栄養研究所)には、自己免疫疾患に関する教育講演をお願いすることができました。自己免疫疾患に関して最近の考え方についてご紹介をいただきつつ、「ウイルス感染が誘導する自己免疫疾患」に関しまして、Epstein-BarrウイルスがコードするLMP2Aが胚中心のB細胞を刺激しマウスでSLE様の病態を引き起こすとのご自身による最近の知見をお話いただきました。南谷先生のご講演の実現には、当年会の企画委員をお願いした黒田悦史先生にお力添えをいただきました。

 シンポジウム「生殖免疫毒性-妊娠の成立・維持のための免疫機構とその破綻-」は、私が長年温めてきた企画です。母親に対してアロ抗原である胎児の受け入れをもたらす妊娠の免疫機構を理解し、不育症や子癇の原因探究のために免疫毒性学的アプローチが必要だと考えました。また、生理学的「免疫抑制」に対する「免疫亢進」が、どのような意味を持つのか、本年会のテーマに沿うものでした。シンポジウムでは、妊娠期や胎盤形成におけるTh1/Th2バランス、Treg細胞、γ/δT細胞やuNK細胞の役割について議論されるとともに、ナノシリカの妊娠に及ぼす影響に関するご報告もいただきました。

 試験法ワークショップでは、行政当局と製薬企業の関係者が参加し、「バイオ医薬品(タンパク製剤)の安全性評価法の最新動向」が取り上げられました。In vivo 試験を支えるin vitro 試験への期待や抗体あるいは抗体-薬物複合体の免疫原性などの課題やICH S6(R1)ガイドラインの考え方が議論されました。Dr. Danuta Herzykによる特別講演とも関連づけられるテーマでもあり、お互いの相乗効果がありました。

 今回の学術年会では、一般演題として、11の口頭発表と22のポスター発表がありました。その中から、「グルタミン酸シグナルによる骨髄由来免疫抑制細胞の機能制御」を発表された立花雅史先生(大阪大学)が年会賞を受賞されました。また、学生・若手優秀発表賞には、「Isocyanates における各種代替法の組み合わせによる皮膚感作性評価とLocal Lymph Node Assayの比較」を発表された大竹利幸先生(安全性評価技術研究所)が選ばれました。これからの研究に関して更なるご発展を期待する気持ちは、学会員の総意であることに間違いはありません。

 本学術年会では、あわせて学会賞ならびに奨励賞の表彰式ならびに受賞講演が執り行われました。学会賞は藤巻秀和先生(国立環境研究所)が受賞され、受賞テーマである「揮発性有機化合物に関する免疫毒性研究」の講演をされました。奨励賞は山浦克典先生(慶應義塾大学)が受賞され、同様に「慢性掻痒性皮膚疾患に関わる皮膚免疫の免疫毒性学的解析」の講演をされました。また、学術年会の前日には十和田市市民交流プラザにおきまして市民公開講座を開催し、香山不二雄先生(自治医科大学)に「コメの安心と安全~カドミウムに関する調査から得られたこと~」についてご講義いただき、市民の方々からの熱心な質問を受けていただきました。

 懇親会では、大きなサプライズを用意いたしました。ITSSからのビデオメッセージです。ITSSの代表であるDr. Victor J. Johnson(Burleson Research Technologies, Inc.)にお願いし、ご自身には我々に向けた挨拶と最近のITSSの活動についてお話いただきました。また、ポスドク代表のDr. Angela Groves(University of Rochester)には、ITSSの教育指導的立場の先生方との交流会の模様を報告していただきました。サプライズは期待以上の成果をあげ、懇親会場からは大きな拍手が沸き起こりました。なお、大学院生代表のDr. Jaijun (Brian) Zhou(Michigan State University)にもITSSのニュースレターを紹介していただく予定でしたが、残念ながら懇親会には僅かに間に会いませんでした。また、私が北里大学内で部長を務めております北里大学ジャズ研究会の演奏もご評価いただき、学生達には暖かいご声援をいただきました。有り難うございます。

 今回、約100名の方のご参加をいただきました。いつもながら、親しい仲間同士(同志)による激しい議論がなされました。これで次世代に大きな希望を託しながら、私の役目を果たすことができたものと考えます。ご指導、ご鞭撻に深く御礼申し上げます。