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第22回日本免疫毒性学会学術年会報告
高野 裕久
京都大学

 皆様におかれましては、益々ご健勝のこととお慶び申し上げます。

さて、平成27(2015)年9月10日(木)、11日(金)の両日に、第22回日本免疫毒性学会学術年会を、京都大学百周年時計台記念館国際交流ホールにおいて開催させていただきました。皆様のお陰をもちまして、無事、盛会裏に、大きなトラブルもなく終了することができました。多くの方々からいただいたご支援、ご協力に、紙面をお借りし、深く感謝申し上げます。

さて、今回の学術集会では、メインテーマを「免疫毒性の新たな視点−毒性影響とかく乱影響−」 といたしました。近年、環境汚染物質や医薬品等による健康影響として、細胞や臓器、個体の傷害や死に基づく毒性レベルの影響(毒性影響)だけではなく、「シグナル伝達のかく乱」やその後の「遺伝子発現のかく乱」を含む「生命・生体システムのかく乱」に基づく、軽度なレベルではあるものの、生活や生命の質に密接に関連する健康影響(かく乱影響)の存在が明らかになってきております。このかく乱影響に焦点を当て、そのメカニズムの解明に迫り、そして、得られた知見を今後の治療や未然防止・予防に連結することをめざし、掲げさせていただいたテーマです。

まず、特別講演では、National Institute for Occupational Safety and Health, USAのDr. Stacey Andersonに、「The influence of early immune signaling and the microbiome on immunomodulatory responses following exposure to the antimicrobial triclosan」と題し、抗菌作用を有するtriclosanの健康影響について、最新の科学的知見を、ご紹介いただきました。

教育講演1では、一條秀憲 先生(東京大学)に「細胞がストレスを感じる仕組みと疾患」というタイトルで、教育講演2では、善本知広 先生(兵庫医科大学)に「環境微粒因子とアレルギー性鼻炎:モデルマウスを用いた増悪メカニズムの解明と治療技術の開発」というタイトルで、最先端のご自身の研究を含む重厚な内容のお話を、大変分かりやすくご提示いただきました。

学会賞は、澤田純一 先生(医薬品医療機器総合機構)が受賞され、「抗がん剤の副作用と遺伝的背景 – 抗がん剤による白血球減少」とのタイトルで受賞講演を行っていただきました。奨励賞は、2名の先生が受賞され、黒田悦史 先生(大阪大学免疫学フロンティア研究センター)に「粒子状物質により誘導される免疫応答とその誘導機構の解析 − 免疫毒性とアジュバント活性−」というタイトルで、柳澤利枝 先生(国立環境研究所)には「環境汚染化学物質が“生活環境病”に及ぼす影響−免疫毒性学の視点から−」というタイトルで、ご講演を頂きました。

シンポジウムでは、「‘毒性’影響から‘かく乱’影響へ」というテーマで、この分野で日本と世界をリードする5名の先生方にご講演頂きました。市瀬孝道 先生(大分県立看護科学大学)には、「黄砂とPM2.5による肺の炎症とアレルギー炎症増悪作用」というタイトルで、小池英子 先生(国立環境研究所)には、「環境化学物質による炎症反応の亢進と免疫担当細胞機能の攪乱」というタイトルで、柳澤利枝 先生(国立環境研究所)には、「環境汚染化学物質曝露による内分泌代謝系のかく乱作用−肥満症への影響−」というタイトルで、伊東恭子 先生(京都府立医科大学)には、「環境化学物質ビスフェノールA曝露による脳形成・発達への影響」というタイトルで、井口泰泉 先生(基礎生物学研究所)には、「環境汚染物質による生殖・内分泌系のかく乱」というタイトルで、それぞれ、素晴らしい内容をご発表いただきました。私の専門分野でもありますが、先生方には、これまでのデータに、さらなる新たな知見も加えていただき、環境汚染物質の種々の影響についてupdateを勉強させていただくことができました。

試験法ワークショップにおいては、「免疫毒性試験法Q and A」というテーマで、新しい試みがなされました。試験法ワークショップQ and Aの質問を学会員から募集し、寄せられた質問の中から、テーマを取り上げました。桃林 篤 先生((株)LSIメディエンス)に「臨床でのフローサイトメトリー測定の現状−非臨床測定項目を考えるために−」というタイトルで、佐藤 実 先生(産業医科大学)には、「化学物質誘発自己免疫に関する試験項目とヒトでのリスク評価」というタイトルで、大石 巧 先生((株)ボゾリサーチセンター)に「抗体産生能などバラつきの大きい免疫毒性データの評価事例」というタイトルで、冨金原 悟 先生(日本製薬工業会医薬品評価委員会データサイエンス部会、小野薬品工業(株))には、「抗体産生能などに対する適正な試験計画と統計解析法」というタイトルで、ご講演をいただきました。

もちろん、一般講演、ポスターセッションでも数多くのご発表と活発なデイスカッションをいただきました。一般演題は口頭発表が11演題、ポスター発表が16演題でした。そのうち、学生・若手発表が3 演題あり、この3演題については、口頭とポスターの両方での発表に基づいて学生・若手優秀発表賞を選考しました。また、それ以外の一般発表から年会賞を選考しました。年会賞は、国立感染症研究所の佐々木永太先生が、学生・若手優秀発表賞は、医薬基盤・健康・栄養研究所、大阪大学の日下部峻斗さんが受賞されました。今後も、お二人の日本免疫毒性学会におけるご活躍に期待いたします。

ポスター会場では、企業展示ブースを設けることもでき、日ごろあまり目にすることもない機器や製品を拝見させていただくこともできました。関係する企業の皆様にも、深く感謝申し上げます。

懇親会では、京都らしさを実感していただけるような料理を、なるべくご用意させていただいたつもりです。少しでも、京都を体感していただけたとすれば、幸いであります。また、知人の伝手を頼り、催し物もご準備させていただきました。大槻先生の演奏は想定外でしたが、皆様とともに、大変楽しい時間を過ごさせていただきました。

二日間を通し、会場を埋める多くの方々が途絶えることもなく、熱心に発表を聞いておられたことには、正直を申しまして、驚きとともに感動いたしました。本学会の大きな特徴を、今回の学術集会も踏襲することができたのではないかと、少し安堵いたしております。

最後に、ご支援、ご協力をいただきました、法人、企業や個人の方々、そして、ご参加いただいた多くの方々に、深く感謝申し上げつつ、今後の学会と来年度の学術集会の更なる発展をお祈り申し上げます。

 
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