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第18回日本免疫毒性学会学術大会報告
上野 光一
(千葉大学大学院薬学研究院)

 平成23年9 月8 日(木)、9 日(金)の2 日間に亘り、千葉大学けやき会館にて、第18回日本免疫毒性学会学術大会を開催しました。3 月には東日本大震災により空前絶後の大災害が日本を襲い、千葉市における学術大会の開催が懸念された時期もありました。しかし東北エリアを中心に日本国民の復興への思いが日に日に高まるのを感じ、学会の立場で全うすべきことは研究への熱意と着実な推進・発展を継続することであると、改めて学会開催の決意を強固に致しました。さらには会員の皆様方から多くのご助言を賜り、予定通り開催が叶いましたことを、先ず心より御礼申し上げます。

 本学会はこれまでに、学問分野としての免疫毒性学の研究水準の向上、そして医薬品審査国際協調会議(ICH)への対応に向けた免疫毒性試験法のガイドラインの作成とICHで活躍される会員の育成に貢献してまいりました。このような軌跡を象徴して本年の学術大会のテーマは、「臨床と基礎の免疫毒性クロストーク」とし、一般演題のほか、特別講演、招聘講演、教育講演、シンポジウム、ワークショップなど、臨床と基礎の両面から免疫毒性に関する広範な内容を企画しました。

 1 日目のRobin L. Thurmond先生(Johnson & Johnson Pharmaceutical Research & Development, L.L.C., USA)による招聘講演「The Histamine H4 Receptor and Immune Function」、森 千里先生(千葉大学大学院医学研究院環境生命医学)による特別講演「化学物質と子供の健康に関する研究について」では、まさに基礎と臨床の両面から最先端の話題をご提供頂き、免疫毒性学の層の厚みを体感できるご講演であったと思います。

 シンポジウム「食物アレルギーの試験法から臨床まで」におきましては、大野博司先生(理化学研究所・アレルギー科学総研究センター免疫系構築研究分野)による「食物アレルギーと腸管免疫・経口免疫寛容」の講演から始まり、足立(中嶋)はるよ先生(東京大学大学院農学生命科学科)による「食物アレルギー性小腸炎の発症には腸管膜リンパ節におけるCD4陽性T細胞による過剰なIL-4の産生の維持が必須である」、そして近藤康人先生(藤田保健衛生大学坂文種報徳曾病院小児科)による「食物アレルゲンの交叉反応性について−新しい診断法の開発−」と続き、最後にGregory S. Ladics先生(DuPont Agricultural Biotechnology, Wilmington, DE, USA)による「Animal Model to Assess Protein Allergenicity: State of the Science」で締めくくられました。避けては通れない食物アレルギーのトピックスに対し、新たな問題点、解明された作用経路、動物モデルの評価や診断法のご提案など、幅広い視野で、また先生方のご専門の切り口で深みのある知見をご紹介いただきました。

 2 日目の教育講演では鹿庭なほ子先生(国立医薬品食品衛生研究所医薬安全科学部)より、「重症薬疹発症と関連する遺伝子マーカーの探索研究」についてご講演を賜りました。鹿庭先生は重症薬疹発症に関与する遺伝子マーカーを体系的にご提示され、またその臨床的意義について、詳細にわかりやすく解説されました。重篤な医薬品による副作用を防ぐためにも、今後は臨床において特定遺伝子のタイピングが患者の反応を予見する重要な役割を果たすものと思われます。

 また試験法ワークショップ「発達期免疫毒性(developmental immunotoxicity)の評価方法」では、再びGregory S. Ladics先生にご登場いただき、「Developmental Immunotoxicology: 'State-of-the-Sciences'」を、続いて渡辺 渡先生(九州保健福祉大学薬学部微生物学研究室)より「RSウィルス感染マウスモデルを用いた臭素化難燃物質の発達期免疫毒性の評価」、Win-Shwe Tin-Tin先生(National Institute for Environmental Studies)より「Studies on the effect of toluene exposure on developing immune system」、そして林 宏一先生(財団法人残留農薬研究所毒性部免疫・急性毒性研究室)の「幼若期の免疫毒性作用−有機塩素系化合物メトキシクロル投与による免疫毒性影響−」が最後を飾り、重要な発達期における免疫毒性の各種試験方法について新たな知識を得ることができました。

 ランチョンセミナーでは、1 日目には用務のため惜しくも御出向が叶いませんでしたが、Charles River laboratories Preclinical Services Montreal Inc, CanadaのSimon Lavallée先生の「Biomarkers of inflammation」を、2 日目にはHuntingdon Life Sciences Ltd., UKのChristopher Kirton先生より「Immunogenicity of biotherapeutics; contributing factors, impact and mitigation」を、それぞれ臨床への応用を念頭に免疫機構の予見性等について重要なご講演をいただきました。

 一方、一般演題では 口頭発表で14題、ポスター発表で10題の発表がありました。さらに2 日目の午前中には6 題の学生・若手セッションを組み、いずれも熱意に満ちた、新鮮な息吹を免疫毒性学の分野に吹き込んでくれる内容でした。当初は先の震災の影響で演題が集まらないのではないかと危惧されましたが、そのような懸念を吹き飛ばすようにほぼ例年通りの演題数を頂戴し、また会場では終始活発な質疑応答が繰り返されました。積極的にご応募頂きました先生方、そして当日の討論に参加してくださった参加者の皆様に深く感謝申し上げます。

 本年度から新設されました学会賞は、第1 回受賞者として吉田武美先生(公益財団法人 薬剤師認定制度認定機構、昭和大学名誉教授)の「免疫学的機序に基づく薬物代謝酵素及びストレス応答酵素系の発現調節」が、また、奨励賞には中村亮介先生(国立医薬品衛生研究所代謝性科学部)の「子どもと免疫:小児食物アレルギー試験の観点から」がそれぞれ受賞されました。その他の受賞としては、毎回恒例の学術大会年会賞は山浦克典先生ら(千葉大学大学院薬学研究院高齢者薬剤学研究室)の「長期外用ステロイド誘発性の新規マウス掻痒モデルの作成」が選ばれ、学生・若手優秀発表賞には、諏訪映里子さんら(千葉大学大学院薬学研究院高齢者薬剤学研究室)の「ヒスタミンH4受容体拮抗薬JNJ7777120のアトピー性皮膚炎に及ぼす作用」が受賞されました。各発表内容はいずれも拮抗しており、僅少差での決着でした。過密なスケジュールの中で厳正な審査をいただきました審査員の先生方に心より御礼申し上げます。

 例年に比べますと参加者数161名と若干少なめでしたが、血気盛んな免疫毒性学会の気質を再確認できる年会であったと実感しております。また本大会では次世代を担う若手研究者の育成へ貢献したいと考え、学生会員の事前参加登録費を無料とさせて頂いたところ、昨年よりも多い27名の学生さんにご参加戴きました。ご理解を賜りました会員の皆様方にこの場をお借りして感謝の意を表したいと存じます。また本年も学術大会終了後にたくさんのスナップ写真をご提供いただきました学会事務局の大槻剛巳先生(川崎医科大学衛生学教室)に心から感謝致します。HPの大会写真を見るたびに充実した発表・討議や楽しかった懇親会の思い出がよみがえって参ります。本当にありがとうございました。

 年会の運営にあたりましては何点かの反省材料もございましたが、今後に生かしていただければ幸いです。最後に、本年会に協賛、共催、ご支援、ご協力を賜りました学会並びに企業の皆様方に厚く御礼申し上げます。そして、温かい年会運営に協力してくれました実行委員会、事務局およびスタッフの皆様方に、年会長として心より感謝の意を表します。
 
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