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第14回日本免疫毒性学会学術大会報告
吉野 伸(年会長)

 本学術大会は、日本薬学会、日本トキシコロジー学会、日本産業衛生学会/アレルギー・免疫毒性研究会、日本毒性病理学会の共催・協賛を得て、平成19年9月20日(木)および21日(金)の2日間にわたって兵庫県民会館(神戸)にて開催された。今回のテーマである「トキシコゲノミクスと免疫毒性」の下に、招聘講演、特別講演、シンポジウム、ワークショップ、一般演題と盛りだくさんの発表があり、また活発な討議が行われた。参加者は152名であった。一般演題は37題、そのうち口頭発表は22題、ポスター発表は15題であった。総会では、将来構想委員会から会員数の確保、学術大会の充実、学会の国際化に関する計画案が提出された。また、人事面では、次期理事長として澤田純一氏(国立医薬品食品衛生研究所)が選出された。

招聘講演T
 塩野義製薬新薬研究所顧問(大阪大学名誉教授)の北村幸彦博士から「肥満細胞とKIT受容体チロシンキナーゼ」の講演がなされた。これまで肥満細胞は未分化間葉細胞から結合組織内で分化すると考えられていたが、北村博士によって本細胞は多分化能血液幹細胞の子孫であり組織に侵入後に肥満細胞に分化することが明らかにされた。また、肥満細胞を欠損する突然変異マウスを2種類発見し、このうちKIT受容体チロシンキナーゼの機能喪失性突然変異による肥満細胞欠損の発見がきっかけになり、現在慢性骨髄腫白血病に対する分子標的薬であるイマチニブが開発された。先駆的な研究業績に大会参加者は大きな感銘を受けた。

招聘講演U
 英国から招待されたEdith Sim教授(University of Oxford, U.K.)から「Drug induced allergy」の講演がなされた。薬物によって発疹などの局所的なアレルギー症状のみならず全身性エリテマトーデスや重症筋無力症などの自己免疫疾患が発症する場合があるが、これらの有害作用は化学物質自体の毒性によることもあるが、患者自身のプロファイルによって毒性が発現する場合がある。たとえば、患者の年齢、免疫状態、薬物代謝能の違いによって毒性が発現する場合としない場合がある。これらについての最新のデータが示された。

特別講演
 漆谷徹郎教授(同志社女子大学薬学部病態生理学)から「トキシコゲノミクスプロジェクトデータベース(TG-GATEs)を用いた肝毒性の予測」の講演がなされた。2002年から今年(2007)の5年間にわたり、医薬基盤研究所、国立医薬品食品衛生研究所および製薬企業15社からなる産官共同の大がかりなトキシコゲノミクスプロジェクトが実施されたが、その最新の成績について発表された。本プロジェクトでは、肝障害・腎障害を有する化合物を選定し、これらを暴露したラットの肝臓、腎臓およびラット・ヒト初代培養肝細胞に関する網羅的遺伝子発現情報をgenechipによって取得し、従来型の毒性パラメーターとともにデータベース化された。本大規模プロジェクトによって肝毒性発現の予測を行う上で、大変貴重なデータベースが完成された。

シンポジウム:生殖免疫毒性
 5名の演者によって発表がなされた。まず、大阪府立病院機構母子保険総合医療センター研究所の中村織江博士は「母体脱落膜における特異的免疫機構」について講演し、妊娠後の胎児の保護のため、子宮内膜(脱落膜)におけるCTLA-1α、Treg、子宮NK細胞の役割について発表した。続いて、Hayssam Khalil博士(Charles River Laboratories, Canada)は「Ontogeny and post-natal development of the rodent immune system」について講演し、マウスの個体発生における免疫機能についての最新データを示した。Gerhard F. Weinbauer 博士(Covance Laboratories GmbH)は「Immune system development in the primate」について講演し、サルにおける免疫系の発達は、ネズミの場合と比較し、ヒトにいかに類似しているかを胸腺、脾臓、リンパ節、肝臓、骨髄、T細胞、B細胞、形質細胞、NK細胞、マクロファージ、樹状細胞、幹細胞を用いて明らかにした。Rodney R. Dietert博士(Cornell University, USA)は、「Development of immunotoxicity and critical windows of exposure for children’s health」、またKenneth L. Hastings博士(FDA, USA)は「Regulatory concerns for developmental immunotoxicology」について講演し、米国での小児における薬物の有害作用の発現について報告した。

ワークショップ:免疫毒性評価の問題点と対策
 4名の演者によって発表がなされた。まず、前田博氏(新日本科学東京病理センター)は「サルの免疫系の病理検査における留意点」について講演し、カニクイザルの免疫組織である脾臓、胸腺、パイエル板、リンパ節、GALT、骨髄などの形態学的特徴について紹介した後、サルの免疫毒性の評価に際しての留意点について述べた。岡村隆之氏(三菱化学安全科学研究所)は、「サルの免疫機能検査の実施例の紹介と留意点」について講演し、サルにおける血液学的検査、末梢血のリンパ球サブセット検査、T細胞依存性抗体産生検査、ナチュラルキラー細胞活性検査について発表するとともに、各試験施設で標準的な試験技術に関するバリデーションを検討する必要性を強調した。小林潔氏(アムジェン)は「TGN1412の開発段階での安全性評価の問題点」について講演し、バイオ医薬品としてCD4+CD25+調節性T細胞を活性化するヒト化抗体であるTGN1412を例にとり、抗体医薬品の毒性評価について紹介した。井上智彰氏(中外製薬)は、「抗体医薬品の安全性評価における留意点」について講演し、抗体医薬品に関する種特異性、免疫原性、ADCCメカニズム、in vitroでの毒性評価について言及した。

一般講演
 5名の審査員による厳正なる一次および二次審査の結果、一般演題の口頭発表から年会賞・奨励賞が決定した。年会賞は新藤智子氏(食品薬品安全センター秦野研究所)の「経口感作および経口惹起によるマウスの食物アレルギーモデル(6)」が、奨励賞は中山彩子氏(ベルン大学&神戸女学院大学環境・バイオサイエンス学科)の「ニジマスの免疫細胞中におけるシトクロムP450-1A(CYP1A)の局在性を中心としたベンゾピレンの免疫毒性の解析」が選ばれた。大会閉会前の授与式にて年会長から賞状と副賞が授与された。
 
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