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第12回日本免疫毒性学会学術大会報告
大沢 基保(大会会長)

 日本免疫毒性学会の大会も、研究会時代から数えて12回目と回を重ねてきました。回が重なると、ややもすればマンネリ化する傾向が出てきます。そこで今大会は会場を東京に戻し、初心に返りこれまでの免疫毒性研究の成果を確認し、新たな研究展開へのステップアップを期したいと考えました。そこで、本大会は「免疫毒性研究の展開 − 個体・細胞・分子のクロストーク」のテーマのもとに開催されました。
 本大会は、日本薬学会と日本トキシコロジー学会の共催、日本産業衛生学会/アレルギー・免疫毒性研究会の協賛を得て、9月20日(火)〜21日(水)に東京大学弥生講堂(東京大学農学部構内)で開催されました。本大会のサブテーマのもとに、基調講演、特別講演、2つのシンポジウム、免疫毒性試験法ワークショップと一般演題(口演、ポスター発表)および米国からのコミュニケーションの発表がなされ、第1日目には学会総会がもたれました。
 参加者実数は約200名で、今回は非会員の一般参加者が52名と多かったこと、また、若い学生諸氏の参加が例年より多かったことが特徴的でした。非会員参加者には、製薬メーカーはもとよりそれ以外の諸業種の企業研究所の研究者の参加も目立ちました。会場は木造建築の落ち着いた雰囲気で、大会テーマに関連する基調講演「免疫毒性研究2005 − 免疫毒性の統合的解釈を指向して」(大会会長)に始まり、2日間にわたり実質的で活発な発表と討議がなされました。実質的な情報の交換と発信の場としたいという当初の大会の目的は、ほぼ達し得たものと思われます。

1.特別講演
 第1日目は、オランダから招待されたRaymond Pieters博士(Utrecht Univ.,リスク評価科学研究所、免疫毒性学部門主任)から、「アレルギーおよび自己免疫に関連する治療薬の免疫毒性学」の講演がなされた。薬物によるアレルギーと自己免疫の最新知見と理論的解釈、それぞれに関連する治療薬の事例、また、PLNA法によるそれら免疫毒性の前臨床的検出法とその評価の問題点などについて、PLNA法の改良に携わる博士の研究を含め最近の研究動向が紹介された。医薬品の免疫毒性と試験法について、直接免疫毒性に続く研究の動向として刺激の多い内容であった。
 第2日目は、森本兼曩教授(阪大院・医・社会環境医学)による「職業・環境関連のアレルギー・免疫毒性の予防システム」の講演がなされた。これは、国際労働衛生学会議(ICOH)のアレルギー免疫毒性委員会が中心となって本大会直前に熊本で開催された国際シンポジウムの内容を主に、アレルギー・免疫毒性の包括的予防システムの構築についての動向と論点が紹介された。とかく、免疫毒性研究は実験的あるいは機序解析面の基礎研究に偏りがちであるが、それらの知見を実践的な予防面に生かすための視点は、本学会の免疫毒性研究の今後の展開方向の一つとして、大いに示唆に富むものであった。

2.シンポジウム1:ナノ粒子と免疫系
 本シンポジウムは、前回大会(福井)でのDonaldoson教授によるナノ粒子の毒性学に関する特別講演を引き継ぐ形で企画された。ナノテクノロジーの進歩と共にナノ粒子のトキシコロジーが今日注目されている。ナノ粒子には、ディーゼル粒子などの環境中の粒子状物質の他に、ナノテクノロジーにより医薬品などに利用されるナノ粒子があり、また、ウイルス粒子のような感染因子も含まれる。微粒子に対する生体防御の第一線はマクロファージなどの食細胞であり、その相互作用の特徴を明らかにすることは免疫毒性においては基本的な研究課題であろう。これに関連して、4題の講演があった。
 ナノ粒子研究の意義を踏まえて、最初は小林隆弘博士(国立環境研)による「ナノ粒子の健康影響研究の動向」の講演の予定であった。しかし、演者の急なご都合により、演題を変更しTin-Tin-Win-Shwe博士(国立環境研)が代演(ナノ粒子の気管内投与による免疫影響に関する研究)した。続いて、小池英子博士(国立環境研)が「粒子状物質が免疫系に及ぼす影響と酸化ストレス作用」について、丸山一雄教授(帝京大・薬)が「ナノテク医薬品(リポソーム製剤)と免疫系」について、土井邦雄教授(東大院・農学生命科学)が「脳心筋炎ウイルス感染症と免疫系」について講演した。
 小林氏の講演がキャンセルになったのは誠に残念である一方、急な依頼に関わらず講演頂いたShwe氏には感謝申し上げます。前2題は、体外から曝露されたナノ粒子の挙動と影響に関するものであり、後2題は体内に投与されたあるいは定着しているナノ粒子の挙動と影響に関する研究である。最近、呼吸器に注入されたカーボンナノチューブが血管細胞中に蓄積されることも報告されているので、環境汚染、感染、ナノテク医薬品等に由来する体内ナノ粒子に対する免疫系(とくに食細胞系)の反応についての研究を、今後さらに深める必要があろう。

3.シンポジウム2:In Vitro Immunotoxicology
 免疫毒性の研究は、ヒトや動物の個体レベルの事象から、in vitroの細胞レベルさらには分子レベルでその機序を説明することが求められつつある。一方、免疫毒性の試験系の開発の面からは、他の毒性試験と同様に、経費と手間の軽減化と実験動物保護の高まりにより、試験系のin vitro化が要請されている。これに関連して5題(うち2題は分担発表)の講演があった。
 作用機序解析に関しては、出原賢治教授(佐賀大院・医)が「インターロイキン4/13とダイオキシンのクロストーク」について、大槻剛己教授(川崎医大)が「アスベストの免疫担当細胞への影響」について講演した。免疫毒性試験法のin vitro化については、坂口 斉博士(花王1)と足立太加雄博士(1資生堂)が「THP-1細胞(ヒト単球由来株化細胞)を用いたin vitro 皮膚感作試験法」について、手島玲子博士(国立衛研)が「マスト細胞からの
ケモカイン遊離並びにバイオマーカーの探索」について講演した。

4. 免疫毒性試験法ワークショップ:新しい免疫毒性
 医薬品の免疫毒性については、本学会のワークショップの検討内容を基にしてICH免疫毒性試験ガイドライン案が作成された。これを一つの区切りとして、今大会では今後重視されるであろう免疫毒性試験の課題について、次の4題の講演があった。
 上田志朗教授(千葉大院・薬)が「臨床におけるバイオ医薬品の免疫毒性−抗リウマチ薬−」について、野原恵子博士(国立環境研)が「トキシコゲノミクスを応用した環境汚染物質の免疫毒性評価法」について、相場節也教授(東北大院・医)が「化学物質の感作性評価に有用な生物学的パラメータの検索」について、中村亮介博士(国立衛研)が「食物アレルゲンの予測とバイオインフォマティクス」についてそれぞれ講演した。免疫毒性
の新対象物質、新研究法、新指標、および研究情報からの新アプローチに関するもので、各講演ともに研究の新たなモチベーションがかき立てられる大変興味深い内容であった。

5.一般講演
 一般演題は、口頭発表13題、ポスター発表7題の計20題であった。今回からは、優秀発表に対する年会賞・奨励賞の審査対象が、発表者の応募制になった。ポスター発表も含め13題の応募があった。ポスター発表も審査対象になるため、順次約8分間の示説発表と討議が行われた。そのためか、口頭発表、ポスター発表ともに活発な質疑が行われた。
 年会賞・奨励賞の審査は、講演要旨による一次審査と実際の発表による二次審査の二段階審査で行われ、審査結果が接近していたが次のように決定された。年会賞は西村泰光氏(川崎医大)他6名の「低濃度アスベスト暴露に誘導される肺胞マクロファージの生存延長と持続的TFG-β1産生能亢進」に、奨励賞は青柳 元氏(筑波大院・バイオシステム)他2名の「ディーゼル排気粒子の構成成分がラットの肺胞マクロファージと末梢血単球のIa, B7分子の発現に及ぼす影響」であった。大会閉会前の授与式にて、大会長から賞状と副賞が授与された。

6.話題提供(コミュニケーション)
 今回は、米国からJ. of Immunotoxicologyの編集委員長であるMitchell D. Cohen博士(New York Univ. Sch. Med.)の来日予定があったことから、本大会にて「米国での免疫毒性学の研究動向」についての紹介講演を依頼した。Cohen博士による広範な研究状況を簡潔にまとめた内容は、現在の本学会の研究状況とも重なるものが多く、本学会の研究活動に自信を深めさせたとともに、日米の研究協力の機会を増やす必要性を強く感じさ
せた。(米国SOTのImmunotoxicology Specialty Section Newsletter 11月5日号に、hen博士によるJSIT大会の紹介記事有り)

7.総会
 総会議事については学会事務局からの報告にゆだね、ここでは名誉会員の顕彰についてのみ紹介する。本大会では、長年の本学会活動へのご貢献に謝して、学会理事会は名倉 宏会員と高橋道人会員のお二人を名誉会員に推挙し、学会員総会の承認を得た。学会理事長から両会員に名誉会員認証と記念品が授与された。なお、学会組織は前任理事の3月任期満了により、4月から新理事会に移行したが、今回の総会で理事長が新たに承認された。
 学会の大会活動において学術課題の継続性を保つことは、学会の特徴を明らかにするためにも、また学術面の深さを増すためにも必要なことです。その点で、ナノ粒子と免疫系のシンポジウムは一つのモデルケースになりうるかと思われます。また、基調講演を通じて研究動向の連続性を示したり、研究の視点を強調したり吟味することも可能かと思われます。今大会では不十分ながらそのような試みを行ったつもりです。本大会は、内容的にも多彩で先進的な話題が多く、欧米また国際的な免疫毒性の研究状況をある程度展望しうる大会であったかと思われます。これもひとえに、演者ならびに参加諸氏のご熱意と、賛助諸団体のご支援の賜と感謝申し上げます。また、学会運営委員と大会実行委員の諸氏の多大なるご尽力とご助言は、大会運営の大いなる助けとなりましたこと、心より感謝申し上げます。以上、会員諸氏に大会の模様を報告致します。
 
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