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第10回日本免疫毒性学会学術大会報告
学術大会会長 北條 博史

 本年度の学術大会は平成15年9月25日(木)、9月26日(金)の両日、神奈川県相模原市のグリーンホール相模大野(相模原市文化会館)で開催された。
 今回は、本学会の前身である免疫毒性研究会が1994年に昭和大学で開催されてから10回目の節目に当たったため、過去を振り返り学会の新たな発展を展望する機会として、サブテーマ「免疫毒性研究10年−免疫毒性研究の新たな展開−」の下に、記念シンポジウム「免疫毒性研究の進展と課題」が開催された。その他、特別講演、2つのシンポジウム、ワークショップ、一般講演と盛りだくさんに企画され、2日間熱心な質疑が行われた。参加者数は前回をやや上回り、会員105名、非会員53名であった。一般講演は5題増の28題でこれまでの大会で最も多かった。このように活発な大会になったのは皆様の多大なるご協力の賜物であり、学会運営を担当させていただいた事務局として、心から感謝する次第である。
 総会では、日本免疫毒性学会会則および学会諸規定の大幅な変更が審議され、組織面からもこれからの学会を支える基盤が確立された。また、本学会の初めての名誉会員として黒岩幸雄先生に対する表彰も行われた。

1.特別講演
 京都大学大学院医学研究科健康増進・行動学分野教授白川太郎講師から、「遺伝要因と環境要因の相互作用:アレルギー疾患をモデルに」の講演を賜った。アトピー遺伝子に関するご自身の最先端の研究を紹介され、アトピー遺伝子の詳細な解析結果及び金属や活性酸素などのアトピー要因との関連など、非常に興味深い刺激的な内容であった。

2.記念シンポジウム
「免疫毒性研究の進展と課題」

 日本免疫毒性学会理事長の帝京大学薬学部教授大沢基保講師により基調講演が行われた。講演では免疫毒性研究の始まり、免疫毒性研究の進展、さらに今後の研究課題となる毒性概念、試験法・毒性機序、リスク評価について、茫漠とした免疫毒性に関する研究は巧みに整理され解りやすく提示された。これを受けて3人の演者が引き続いて免疫毒性の新たな課題について話された。ファイザー株式会社中央研究所安全研究統括部の堀井郁夫講師は、「医薬品開発における免疫毒性評価の分子毒性学的アプローチ −トキシコパノミックス(トキシコプロテオミクス、メタボノミクス)の免疫領域への展開−」について、国立医薬品食品衛生研究所機能生化学部の手島玲子講師は「食物アレルギーの実験モデルとアレルゲン性評価」について、国立環境研究所環境健康研究領域の藤巻秀和講師が、「動物実験モデルを用いた環境化学物質の毒性評価」について、それぞれ医薬品開発、遺伝子組換食品、環境化学物質研究の3分野からの最先端の発表であった。

3.シンポジウムI
「化学物質過敏症」

微量化学物質の慢性暴露により発症する化学物質過敏症が増加しているが、自覚症状が主で客観的に観察可能な症状が極めて少なく、発症機序も不明である。2名の演者は、化学物質過敏症やシックハウス症候群の典型的原因物質と考えられているホルムアルデヒドによる動物実験について発表した。旭川医科大学健康科学講座の吉田貴彦講師は「ホルムアルデヒドの免疫系への影響−マウスを用いた実験系による検討−」の発表において、ホルムアルデヒド暴露による体液性免疫亢進や他の免疫パラメーターの変動の化学物質過敏症患者との類似性等を示唆し、東海大学医学部基盤診療学系の相川浩幸講師は「ホルムアルデヒド周産期暴露学習行動への影響」において、シドマン型電撃回避学習試験による回避率95%以上のラットを用いた実験で、約0.09ppmというきわめて低濃度ホルムアルデヒドが自発行動の抑制や平衡感覚の乱れ、学習行動の低下など中枢神経機能に影響をきたすことを示唆した。北里研究所臨床環境、北里大学大学院
医療系研究所の坂部貢講師は、ご自身の研究を含めて、環境化学物質の生体影響を“恒常性維持に必要な生理機能の破綻”という広い視野から捉え、「“神経内分泌免疫学”からみた化学物質過敏症の最新動向」と題して最近の知見を紹介した。

シンポジウムII
「バイオ医薬品の毒性評価と副作用」

 さまざまなバイオ医薬品が臨床の場に登場しつつあり、これらの毒性評価と副作用問題は重要である。昨年の本学会でもバイオ医薬品の免疫毒性試験はワークショップにおいてとりあげられたが、今回は臨床治療上の問題点を明らかにすることを意図した。
 まず、医薬品機構・治験指導部の西村多美子講師により、「生物薬品の治験に望むもの−抗体医薬・受容体医薬を中心に−」の課題で、治験に関する指導及び助言の立場から非臨床から臨床への移行の判断や治験概要書等について講演があった。千葉大学大学院医学研究院の横須賀収講師は、「肝炎に対するインターフェロン治療時の副作用とその対策」として、約300名のC型肝炎患者に対し行ったインターフェロン治療の経験を基に、治療経過時期と副作用の発生状況、副作用の多彩性や重症度、及びそれらの対応策について講演した。千葉大学大学院薬学研究院の上田志朗講師は、「モノクローナル抗体によるリウマチ治療における問題点」として、現在使用されている6モノクローナル抗体製剤を紹介し、特に抗TNFα抗体であるインフリマキシブを中心に、タンパク製剤としての抗原性の問題とそれらの薬剤の免疫反応に及ぼす免疫毒性の問題、またこの抗体製剤の適応拡大の可能性等を話された。

4.ワークショップ
 本学会の伝統的なワークショップは、今回は2つのセクションに分けて行った。
(1)「医薬品に関する免疫毒性評価法の国際調和」
国立医薬品食品衛生研究所機能生化学部の澤田純一講師は、「医薬品に関する免疫毒性試験ガイダンス(案)とICH」という演題で、日本における医薬安全総合研究「国際動向を踏まえた医薬品の新たな有効性及び安全性の評価に関する研究」の1つの「免疫毒性試験法の標準化に関する調査研究」班を代表して、免疫毒性試験法ガイダンス案の紹介並びにICHに関する進行状況を報告された。帝国臓器製薬株式会社安全性・代謝研究部の久田茂講師は、「医薬品の免疫毒性試験国際調和ガイドライン作成のためのICH免疫毒性データ調査」として、EUと
日本・米国間の不一致点を解決するために行ってきたICH免疫毒性データ調査結果を報告した。
(2)「抗原性試験の課題」
 ヤンセンファーマ株式会社研究開発本部の牧栄二講師は、「医薬品開発における抗原性試験の問題点」の演題で、低分子医薬品の抗原性試験の必要性と実験方法の問題点を論じた後、被験医薬品投与モルモットでのリンパ球幼若化試験やマウス膝下リンパ節試験による抗原性試験を行うことを提案した。三共株式会社安全性研究所の木村努講師は、「マウス膝窩リンパ節試験(PLNA)の抗原性試験における実用性」の演題で、モデル薬物で誘起されたPLNA反応におけるPLNインデックス、リンパ球サブセット、Th1/Th2サイトカイン産生の変化等を紹介し、PLNA評価における留意点を明らかにした。

5.一般講演
 口頭発表とポスター発表の両方法での募集を行ったが、予想に反してポスター発表希望者が多かったため、一部の発表者に変更依頼を行い、最終的には口頭発表14題、ポスター発表14題となった。
 昨年度から行っている優秀発表に対する年会賞、奨励賞の表彰は今大会は次のように決定された。年会賞は、東京薬科大学生命科学部環境衛生化学研究室の櫻井照明氏の「ヒ素の免疫毒性発現におけるグルタチオンの役割」に、奨励賞は、同点であたため、食品安全センター秦野研究所の金澤由基子氏と同所の新藤智子氏に決まった。両氏は共同実験者でもあり、前者は「経口感作および経口惹起によるマウスのアレルギーモデル(1)」、後者は、「経口感作および経口惹起によるマウスのアレルギーモデル(2)−消化管変化を特異的指標として−」の発表者であった。
 
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