≪免疫毒性試験プロトコール 19≫

LLNA-DA


2004; 9(1), 11-13


山下 邦彦,出原 賢治
ダイセル化学工業(株)評価・解析センター


A. 解説

Local Lymph Node Assay(以下LLNA)は,マウスを用いた皮膚感作性試験法として,Kimberら1,2)によって発表され,2001年には欧州医薬品審査庁のガイダンス3)に,また2002年にはOECDテストガイドライン4)に,独立した試験法として正式に採択された。LLNAは,従来のモルモットを使用した皮膚感作性試験と比較し,試験期間が短い,定量的なデータが得られる,動物に対する負荷が少ないなどのメリットを有するが,感作性の検出に3H-thymidineを用いることから,日本においては実施出来る施設に制限があるのが実情であると思われる。一方ラジオアイソトープ(RI)を使用しない非RI-LLNAを開発することを目的に,国内でも優れた成果が報告された5,6)。しかしながら,これらはいずれも,一般的な化学品会社において,日常的に行うには技術的に高度であった。そこで我々は,より簡便な非RI-LLNA法の開発を試み,皮膚感作性物質の検出法として実用上十分な感度と,従来にない簡便性を有する手法(LLNA-DA: modified LLNA ofDaicel based on ATP content)を開発したので紹介する。我々はこの手法を用い,論文などでLLNAを用いた評価結果が公開されている既知化合物約20種類と,自社開発等に関連した100種類以上の新規化合物を評価した。既知化合物に関してはLLNA法と同等の感度で検出できること,及び新規化合物に関しては,それらの構造から予測される感作性とLLNA-DAの結果が良く一致することなど,試験法としての有効性に関してはある程度の信頼性と実績はあると考えた。

B. 実験材料

1.動物

CBA/JNマウス(雌, 8〜12週齢)を使用する。他の系統のマウス,あるいは雄マウスについては,十分な使用実績がない。動物は個体識別が出来る様に飼育し,試験開始時及び終了時に体重を測定する。

2.試薬及び器具

(1)溶媒:アセトン/オリーブオイル4:1(v/v),ジメチルスルフォキシド,N,N-ジメチルホルムアミド等

(2)ATP測定試薬:ViaLightTM HS(三光純薬)

(3)その他:リン酸緩衝生理食塩水(PBS),1%SDS溶液

(4)ATP測定装置:ルミテスターC-100(キッコーマン(株))

C. 実験操作手順

1.投与及びATP測定

第1, 2, 3及び7日:被験物質溶液を調製する。被験物質投与1時間前に,1%SDS溶液をマウス両耳介に,習字用細筆を用いて塗布する。SDS塗布後1時間目に,被験物質溶液25μlをピペットマンを用いて塗布する。
第8日:リンパ節を摘出し、重量、及びATPの測定を行う。

4回目の投与は,第6日に実施した場合でも統計上有意差のない結果が得られる。この場合リンパ節の摘出は第7日となる。

第1日〜第3日の投与は,できれば同一時間帯が望ましい。

第7日目の投与は午前中に行い,摘出まで24時間以上の時間を空ける。我々の標準プロトコールでは,水曜日から金曜日に最初の3回の塗布を実施し,翌週の水曜日にリンパ節の摘出を実施している。

2.使用する動物数

使用する動物数は,統計処理が可能となるよう各群3匹以上を使用する。我々は,通常1群3匹,1化合物3濃度(計9匹),陽性対照及び陰性対照各3匹の15匹を最小セットとして試験を実施している。複数の人数(3人)で処理すれば,3時間程で50匹程度の動物の処置とATP測定がすべて終了するので,1回の実験で4ないし5化合物の評価が可能である。また,感作性強度の相対比較などを実施する場合には,同一濃度(例えばEugenol,HCA等で十分な反応が見られる15%)で試験を実施すれば14ないし15化合物の比較が同時に比較できる。なお,実験最終日の処置は,処置数を増やす目的があれば,できれば複数の人数で行うことが望ましいが,第1日目から第7日目までの塗布に関しては,50匹程度であっても一人で作業は可能である。

3.被験物質の調製と塗布

被験物質の溶解性によって適切な溶媒を選択し使用する。試験濃度は,労働安全の為の感作性スクリーニングとしては,Basketterらの報告を参考に,35%,15%,0.1%の3濃度でスクリーニング試験を実施している7)。EC3値を求める場合には,OECDのガイドラインに従った濃度設定を行う4,7)。被験物質の調製については,使用時に調製することが望ましいと考えられる。また同時に複数の検体を異なった溶媒に溶解して塗布する場合には,溶媒対照群は使用した溶媒ごとに設ける。試験感度を表す陽性対照には,10%Eugenol(AOO溶媒),15% HCA(DMF溶媒)を用いている。これらを用いた場合,通常リンパ節重量で約2倍,ATP値で3倍以上の反応が得られる。

被験物質適用1時間前に行う1%SDS処理は,習字用細筆を用いて,軽く1回濡れる程度に行えば十分であり,この処置により感度が上昇する。SDS溶液は,サンプルの相互混入を防ぐために,15ml容積のファルコンチューブなどに動物群数用意して行う。習字用細筆に関しては,動物群ごとに軽く水洗,ペーパータオルなどで水切りして使用する。

4.浮遊液の調製

切除したリンパ節は,そのまま25mm径程度の細胞培養用ディッシュに移し,精密化学天秤で重量を測定する。重量測定後,リンパ節を2枚のスライドグラスにはさんで軽く潰し(リンパ節が潰れて広がればよい),500μlのPBS溶液を用いて,スライドグラスに付着した細胞を,ディッシュ内に洗い流すように回収する。このとき,細胞剥離用のセルスクレイパー(Costar Corporation: CatalogNo. 3010)を用いると効率良く細胞が回収できる。

5.ATPの測定

調製した細胞浮遊液の一部をPBSを用いて100倍に希釈しATP測定用のサンプルを作成する。通常は,15ml容量のファルコンチューブなどに,予め1.98mlのPBSを分注しておき,そこに20μlの細胞浮遊液を添加する。次に,ViaLightTM HSのマニュアルに従い,90μlのATP抽出試薬に,90μlのサンプル(希釈した細胞浮遊液)を添加し,5分間放置後に20μlの発光試薬を添加して,直ちにルミテスターC-100等を用いて,抽出されたATP量を反映するルシフェリンの発光量を測定する。

6.データ処理及び判定基準

マウス個体毎に測定したリンパ節重量とルシフェリン発光量データの統計処理を行い,有意差検定を行う。感作性の判定基準は,投与したいずれかの被験物質濃度において,ルシフェリン発光量が,溶媒対照の3倍以上であれば明らかな陽性とするが,被験物質の濃度依存性やリンパ節重量の増加なども考慮に入れる。

D. 留意事項

1.動物を安楽死させてからATP量測定までは個体毎に20分以内で行うようにする。

2.ATP測定試薬に関しては,ViaLightTM HSを使用している。他のキット試薬などに関しても,基本的には使用可能であると考えているが,現在検討中である。なお三光純薬よりViaLightTM HS plusと言う別製品が発売されているが現時点では使用の可否は不明である。

3.判定に関しては,スクリーニング試験でわずかに陽性が疑われる場合(統計的な有意差のみが認められ,刺激指数が3を超えていないような場合)には,試験濃度を設定しなおして確認試験を実施し,再現性と濃度依存性を確認する。また物性情報,構造情報なども考慮にいれて慎重に判定を行う。我々の社内安全性の判定基準としては,より厳しく判定する目的でリンパ節重量,ルシフェリン発光量のいずれかで統計的有意差が出た場合には陽性と判定することにしている。

4.溶媒との関係から皮膚への透過性の悪いことが考えられる物質についてはMaximization法を考慮する。

E. 参考文献

1. Kimber, I., Mitchell, J.A., and Griffin, A.C. (1986)Development of a murine local lymph node assay forthe determination of sensitizing potential. Food andChemical Toxicology. 24, 585-586.
2. Kimber, I., Hilton, J.A., and Weisenberger, C. (1989) Themurine local lymph node assay for identification ofcontact allergens: a preliminary evaluation of in situmeasurement of lymphocyte proliferation. ContactDermatitis. 21, 215-220.
3. The European Agency for the Evaluation of MedicinalProducts (2001) Note for Guidance on Non-ClinicalLocal Tolerance Testing of Medicinal Products.
4. OECD (2002) Guideline for Testing of Chemicals 429,Skin Sensitisation: Local Lymph Node Assay.
5. Hatao, M., Hariya, T., Katsumura, Y., and Kato, S.(1995) A modification of the local lymph node assay forcontact allergenicity screening: mesurement ofinterleukin-2as an alternative to radioisotopic-dependent proliferation assay. Toxicol. Pharmacol. 34,274-286.
6. Suda, A., Yamashita, M., Tabei. M., Taguchi, K, VohrH-W, Tsutsui, N., Suzuki, R., Kikuchi, K., Sakaguchi, K.,Mochizuki, K., and Nakamura, K. (2002) Local lymphnode assay with non-radioisotope alternativeendopoints. The Journal of Toxicological Sciences,27(3)205-218.
7. Basketter, D.A., Blaiker, L., Dearman, R.J,. Kimber, I.,Ryan, C.A., Gerberick, G.F., Harvey, P., Evans, P.,White, I.R., and Rycroft, R.J.G. (2000) Use of the locallymph node assay for the estimation of relative contactallergenic potency. Contact Dermatitis. 42, 344-348.