≪免疫毒性試験プロトコール 16≫
ラット末梢血白血球の計数及び百分比
2001; 6(1), 10-11
土井 久子,吉岡 勝
(武田薬品工業)
A. 解説
末梢血白血球数の増加からは感染あるいは炎症反応等が,減少からは骨髄における前駆細胞産生低下,あるいは抗生物質や抗ガン剤等の薬物による影響が推察できる。末梢血白血球は好中球,好酸球及び好塩基球等の顆粒球,リンパ球並びに単球で構成されている。これらの細胞の百分比と白血球数から各細胞数を算出することにより,影響を受けた白血球の種類を知ることができる。
末梢血白血球の計数には一般に自動分析装置が用いられる。これはシスメックス,バイエルメディカル等から販売されている。百分比算出は,自動分析装置を用いてパターン認識法あるいはフローサイトメトリーにより分類する方法と血液塗抹標本を鏡検する方法がある。
B. 実験材料等
@ 全血
抗凝固剤はEDTA・2Naを使用する。
必要量は次の通り。
自動分析装置による白血球計数用・・数百μL (測定機により異なる)
塗抹標本作成用・・約4μL (用手法),約200μL (塗抹遠心機を用いる場合)
A 試験管
自動分析装置で測定する場合は,専用の試験管が販売されている。真空採血管のまま測定できる機器も多い。
B 精度管理血球 (自動分析装置を用いる場合)
測定機に対応した管理血球が機器メーカーから販売されている。
C 染色試薬 (血液塗抹標本作製用)
・メタノール
標本の固定に用いる。
・pH6.8-Soerensenリン酸緩衝液 (Buffer)
Na2HPO4 4.73gとKH2PO44.54gを精製水に溶解し10Lとする。
・May-Gruenwald染色液
Bufferで3倍希釈する。用時調製。
・2.5v/v%Giemsa染色液
Giemsa液をBufferで希釈する。用時調製。
・約0.01v/v%酢酸水溶液
May-Giemsa重染色の調色に用いる。用時調製。
・キシレン
標本の透徹に用いる。
・封入剤 (Fischer Permount等)
標本の封入に用いる。
D 器具 (血液塗抹標本作製用)
スライドガラス,カバーガラス,染色壷8個,ステンレス製染色かご
C. 実験操作手順
自動分析装置を用いる場合
@ 精度管理
精度管理血球を数回測定し,測定値をメーカー提示の参考値あるいは施設で定めた許容値と比較することにより機器の精度管理を行う。
A 試料の測定
多くの機器では,細胞分画の設定は動物種毎にプログラム固定されているため,実験者は動物種を選択して試料をセットするだけでよい。
詳細は機器のマニュアルに従う。
血液塗抹 (May-Giemsa重染色) 標本の作製及び鏡検の方法
@ 血液の塗抹
スライドグラス上に血液を約4μL排出し,カバーグラスを用いてほぼ一様の厚さになるように薄く塗抹する。塗抹遠心機を用いる場合は血液を約120〜200μL排出する。塗抹後,2時間以上風乾させる。
A 固定
メタノールで5分間固定する。
B 染色
それぞれの溶液を入れた染色壷に,スライドガラスを入れた染色かごを順に浸漬する。洗浄操作では,染色かごを壷の中でゆっくり2回上下させる。
C May-Gruenwald染色液 5分間
D Giemsa染色液 5分間×3槽
E pH6.8-Soerensenリン酸緩衝液
1回洗浄×2槽
F 酢酸水溶液 1回洗浄
G 精製水 1回洗浄
H 標本の風乾 数時間
I 封入
J 標本をキシレンに浸漬し,透徹する。
K 標本をキシレン容器より取り出し,濾紙の上に置く。
L ガラス棒を用いて,封入剤を塗抹面に載せる。
M カバーグラスをかける。この時気泡などが入らない様注意する。
N 数時間放置して乾燥させる。
なお,A〜Cの操作はプレパラート自動封入機を用いてもよい。
O 鏡検
・ 光学顕微鏡下 (弱拡大:対物10〜20倍) で予備観察し,細胞の重なりが少なく,ほぼ均等に塗抹されている部分を観察部位に選定する。
・ 観察開始位置にマジックで印をつける。
・ 光学顕微鏡下 (強拡大:対物40〜100倍) で観察する。
・ 標本1枚あたり100個の白血球を観察し,好中球,好酸球,好塩基球,リンパ球及び単球の5種類に分類する。
・ それぞれの識別方法の目安を示す。
D. 参考データ
参考までに当社の背景データ (10週齢 Crj:CD(SD)IGSラット) を示す。
雌雄各178例 (白血球数),各150例 (百分比) の5%点〜95%点を示した。
白血球数:電気抵抗検出方式 (シスメックスE-5000),百分比:鏡検
E. 留意事項
1. 試料の保存安全性
自動分析装置で測定する場合,採血後約6時間以内に使用する。塗抹標本を作製する場合,塗抹は採血後速やかに,固定までを当日中に実施する。
2. 塗抹標本の染色程度の調節
上に示した条件で染色が不十分な場合は染色時間を長くする。染色液の濃度を上げると,核の構造や顆粒の観察が困難になる可能性がある。
3. 白血球数測定への干渉要因
自動分析装置で測定した白血球数が高値の場合,赤芽球数が含まれている可能性がある。この場合は,塗抹標本を鏡検し,白血球を200個算定する間に観察される赤芽球数から白血球数と赤芽球数の比率を算出し,機器で測定した白血球数を補正する。
F. 参考文献
1)金井 泉:臨床検査法提要,改訂第30版,金原出版,1993
2)小宮正文:図説・血球の見方
3)日野志郎,臨床血液学,p159,医歯薬出版,1987