≪免疫毒性試験プロトコール 11≫

マウスリンパ節細胞のサイトカインの定量的PCR

2000; 5(2), 5-7


柴田道男
株式会社資生堂 ライフサイエンス研究センター

A.解説

化学物質等の皮膚感作性を評価する方法としては,モルモットを使用するMaximization Test等が汎用されている。これに対し,使用動物数の削減を目指してマウスを用いたLocal Lymph Node Assay(LLNA)が開発され,OECDガイドラインNo.406(皮膚感作性)にも収載されている(1)。さらにその後,スクリーニング方法としてではなく独立の感作性試験としての評価を得るに至っている(2)。LLNAはモルモットを用いた方法に比べ,検出感度が落ちる反面,評価が客観的で,動物福祉の観点からも望ましいと考えられ,また様々な免疫学的基礎データを得ることもできる利点がある。我々は,LLNAの変法として,アイソトープを使用せずに,IL-2の放出量をELISAで測定するex vivo LLNA法(CII法)を既に報告している(3,4)。次にex vivo LLNA法の感度をさらに高めるために,感作性の成立に関与する種々のサイトカインのリンパ節細胞における遺伝子発現を指標とする方法を開発した(5)。本法の特長は,蛍光プローブを用いたRT-PCR法によって目的とするサイトカインのcDNA量を精度よく測定する点と,リンパ節細胞のIL-2,IL-4などのサイトカイン遺伝子の発現増加率を,外部標準RNAとして加えたラットpoly(A)+RNA由来のGAPDH(glyceraldehyde 3-phosphate dehydrogenase)cDNA量を用いて補正するという点である。事前の検討としてTNCBで感作誘導したリンパ節細胞のIL-2の発現をRT-PCRで検出した結果,GAPDHの変動が大きく,内部標準として使用できなかった(図1)。そこで我々は,新たにラットpoly(A)+RNAを外部標準として添加することで細胞集団全体での発現量の補正を行うこととした。



B.実験方法

1.動物

メス8-12週令のC3H/HeNマウス(日本SLC)を実験に用いた。LLNAの原著では雌のCBA/CaあるいはCBA/J系マウスが使用されている(詳細はImmunoTox Letter Vol.5, No.1, p10, 2000を参照)。

2.試薬

ラットpoly(A)+RNA,Isogen(ニッポンジーン),M-MLV逆転写酵素,oligo(dT)プライマー(GIBCO BRL),TaqManTMプローブ(アプライドバイオシステムズ)

3.LLNA(RT-PCR法)

(1)感作誘導

 マウスの両耳介皮膚(背側)に被験物質溶液25μLを塗布する。3日間連続塗布して感作誘導し,投与開始6日目にも塗布して再誘導する。翌日頚部リンパ節を採取する。

(2)リンパ節細胞の調製

 採取したリンパ節から,PBS(-)中でテフロンプランジャーと綿栓を用いてリンパ節細胞の細胞浮遊液を調製し,RPMI-1640培地(10%FBS,25mM Hepes,100μg/mLペニシリン,100units/mLストレプトマイシン,0.25μg/mLアンフォテリシンBを含む)に5×106cells/mLの細胞密度で懸濁後,200μLずつ96穴培養プレートに播種し24時間,48あるいは72時間CO2インキュベーターで培養する。

(3)RNAの調製とcDNAの合成

 培養後のリンパ節細胞をピペッティングにより回収し,2000xgで5分間遠心する。細胞の沈殿に1mLのIsogenを加え,ピペッティングによって細胞を破壊する。さらに遺伝子発現定量の外部標準RNAとして5ngのラットpoly(A)+RNAを加え,定法に従い,クロロホルム抽出,イソプロパノール沈殿,エタノール沈殿を行いRNA画分を得る。oligo(dT)をプライマーとする逆転写酵素反応で,1μgのRNAからcDNAを合成する。

(4)蛍光プローブを用いたPCR法(TaqManTM PCR法)による遺伝子発現の定量

 得られたcDNAをABI PRISM 7700 Sequence Detector System(アプライドバイオシステムズ社)を用いて定量する。この方法の原理を図に示した(図2)。DNAの伸長反応と共に解離するレポーター色素の蛍光が明確に認められるサイクル数と標準試料のコピー数の対数が直線関係になることを利用して試料中のcDNAコピー数を算出する。なお,IL-2,IL-4およびラットGAPDHのプライマーと蛍光プローブの配列を表1に示した。





(5)定量的PCRの標準試料

 本法ではあらかじめ標準試料として,目的とする遺伝子に特徴的なDNAの標準試料を調製しておく必要がある。遺伝子が十分に発現している細胞からcDNAを合成し,RT-PCRで十分に増幅した後,アガロースゲル電気泳動を行い,ゲルからPCR産物を切り出して,QIAGEN DNA extraction kitなど適当な方法でDNAを精製する。得られたDNAをプラスミドに組み込み増幅させ,シークエンスを確認した後,標準試料として用いる。簡便にはゲルから切り出し精製しただけの試料でも十分に実用できる。

C.データ処理

得られた結果はラットGAPDHの発現量で補正し,溶媒対照群の細胞全
体の遺伝子発現に対する増加率(S.I.)として表す。



D.留意事項

 ・最近では,アプライドバイオシステムズ社から様々なサイトカインに対するプライマーとプローブのセットが売り出されており,簡便である。
 ・さらに所属リンパ節重量とリンパ節細胞のCD4陽性細胞比の変化率を組み合わせた新しい指標CSI(Corrected Stimulation Index for cytokine mRNA expression)を用いて感作性を評価する方法も考察している(6)

E.参考文献

1)OECD Guideline for Testing of Chemicals No.406, Skin Sensitization, Adopted by the Council on 17th July 1992, Organization form Economic Cooperation and Development, Paris(1992)
2)The Murine Local Lymph Node Assay: A Test Method for Assessing the Allergic Contact Dermatitis Potential of Chemicals/ Compounds. NIH publication No.99-4494 (1999)
3)Hatao, M., Hariya, T., Katsumura, Y. and Kato, S., A modification of the local lymph node assay for Contact allergenicity screening: measurement of interleukin-2 as an alternative to radioisotope-dependent proliferation assay. Toxcol. 98, 15-22 (1995)
4)Hariya, T., Hatao, M. and Ichikawa, H., Development of a non-radioactive endopoint in a modified local lymph node assay. Fd. Chem. Toxicol. 37, 87-93(1998)
5)Shibata, M., Hariya, T., Hatao, M., Ashikaga, T. and Ichikawa, H., Quantitative polymerase chain reaction using an external Control mRNA for derermination of gene expression in a heterogeneous cell population. Toxicol.Sci. 49, 290-296(1999)
6)Hariya, T., Hatao, M., Shibata, M., Ashikaga, T. and Ichikawa, H., Immunogenicity of environmental haptens-Evaluation of immunogenicity of haptens by cytokine mRNA expressions in LLNA-. Environ. Dermatol. 5, 92-101(1998)