≪免疫毒性試験プロトコール 5≫
ラットNK細胞活性測定法
1999; 4(2), 5-7
筒井 尚久
三菱東京製薬株式会社 横浜研究所 安全性研究所
A. 解説
ナチュラルキラー (NK) 細胞は,T細胞やB細胞とは形態的および機能的に区別されるリンパ球であり,抗原感作の有無に関わらず,ウイルス感染細胞やある種の癌細胞を障害する働きを持つ。NK細胞活性測定は,免疫毒性試験において非特異的免疫機能の評価項目の一つに挙げられ,米国Environmental Protection Agency (EPA) の免疫毒性試験ガイドライン (TSCA 799.9780 ImmunotoxicityおよびOPPTS 870.7800 Immunotoxicity) では,羊赤血球に対する抗体産生試験に引き続いて行いうる追加試験項目として記載されている1),2)。
一般的にNK細胞の細胞障害性は,51Cr標識した標的細胞を用いて測定される。ここでは,51Cr標識したYAC-1細胞 (マウスリンパ腫) を用いたラットのNK細胞活性測定について述べる。
B. 実験材料
1. 試薬類
1).Hanks balanced saline solution (HBSS)
2).赤血球溶解液:0.83% NH4Cl/17mM Tris液 (pH7.2)
3).培養液:10%牛胎児血清 (56℃で30分間加温し,非働化処理を施したもの),2mM
L-glutamine,10mM HEPESを含有するRPMI-1640培地
4).Na2Cr51O4:37MBq/ml,第一化学薬品株式会社,Code No. NEZ-030S
5).NonidetR P-40 (NP-40) の0.1%水溶液
2. 細胞
YAC-1細胞は,大日本製薬株式会社 (カタログ番号05-558) あるいはAmerican
Type Culture Collection (カタログ番号ATCC TIB-160) から購入が可能。上記の培養液で2×105/ml〜2×106/mlの細胞濃度を維持するように継代培養する。
3. 器材
1) 96穴丸底マイクロプレート (Costar,カタログ番号 3799)
2) 滅菌済の遠沈管,ピペットチップおよびピペット (CostarあるいはFalconなど)
3) セルカウンター (日本光電,MEK-5254)
4) CO2インキュベーター (ヤマト科学,IT-63)
5) ガンマカウンター (Packard,COBRATM)
6) 放射活性測定用チューブ (Nunc,カタログ番号 443990)
7) 遠心機 (日立工機,himac CF7D,RT3S3ローター)
C. 実験操作手順
1. 脾臓細胞 (エフェクター細胞) 浮遊液の調製
1) 脾臓ごとに別々に細胞浮遊液を調製する。
2) 脾臓をステンレスメッシュ上に載せ,ハサミで細切した後,HBSSを加えながらプラスチックシリンジの内筒のゴム部分を用いて軽く押しつぶし,20mlの単細胞浮遊液を得る。
3) 細胞浮遊液を50ml遠沈管に入れ,120x gで5分間遠心する。
4) 上清を除いた後,3mlの赤血球溶解液を加えよく混和する。室温で約3分間静置後,120x
gで5分間遠心する。
5) 赤血球溶解液を完全に除くため,ペレットを20mlのHBSSで2回洗浄する (120x
g,5分間の遠心操作)。
6) セルカウンターあるいは血球計算盤を用いて細胞数をカウントし,培養液で細胞濃度を1×107/mlに調製する。細胞塊がある場合にはナイロンメッシュ等を通した上で培養に用いる。
2. YAC-1細胞 (標的細胞) 浮遊液の調製
1) YAC-1細胞は継代2〜3日後の細胞を使用する
2) 細胞液をフラスコから15ml遠沈管に移し,120x gで5分間遠心する。
3) 上清を除いた後,10mlの培養液を加えよく混和し,セルカウンターあるいは血球計算盤を用いて細胞数をカウントし,培養液で細胞濃度を1×107/mlに調製する。
4) 50mlの遠沈管に1×107/mlに調製したYAC-1細胞浮遊液を1ml加え,さらに200μ(7.4MBq) のNa2Cr51O4を加えよく混和した後,CO2インキュベーター内 (5% CO2,37℃に設定) で1時間培養する。この間,約15分間隔で細胞浮遊液を軽く混和する。
5) 培養後,余剰のNa2Cr51O4を除くために40mlのHBSSで細胞を3回洗浄する (120xg,5分間の遠心操作)。
6) 最後に,培養液を10ml加え,細胞濃度を1×106/mlに調製する。さらに,これを培養液で10倍に希釈し,1×105/mlの細胞浮遊液を培養に用いる。
3. 細胞培養
1) 96穴丸底マイクロプレートの各ウェルに1×107/mlに調製した脾臓細胞浮遊液を100μ (ウェル1〜3),50μ (ウェル4〜6),25μ (ウェル7〜9) ずつ加え,さらに培養液を50μ (ウェル4〜6),75μ (ウェル7〜9),100μ (ウェル10〜12) ずつ加え,各ウェル内の液量を100μにする。これにより,ウェル1〜3,4〜6,7〜9にはそれぞれ1×106,5×105,2.5×105の脾臓細胞が加えられていることになる。
2) 次いで,1×105/mlに調製したYAC-1細胞浮遊液をウェル1〜15に100μずつ加える (1×104/ウェル)。
3) 最後に,ウェル13〜15に0.1% NP-40を100μlずつ加えた後,脾臓細胞とYAC-1細胞の接触を良くするために,マイクロプレートを150x
gで1分間遠心する。
4) CO2インキュベーター内 (5% CO2,37℃に設定) で4時間培養する。
4. 放射活性測定
1) 培養後,マイクロプレートを300x gで10分間遠心する。
2) 各ウェルから100μの上清を放射活性測定用チューブに回収し,ガンマーカウンターを用いて各サンプルにつき1分間放射性を測定する。
D. データ処理
1. 脾臓細胞とYAC-1細胞を加えたサンプル (ウェル1〜3,4〜6,7〜9)を実験遊離値,YAC-1細胞に培養液のみを加えたサンプル
(ウェル10〜12) を自然遊離値,YAC-1細胞に0.1%NP-40を加えたサンプル (ウェル13〜15)
を最大遊離値とし,3ウェルの平均値を用いて,以下の式より%細胞障害性を算出する。
2. NK細胞活性 (%細胞障害性)=(実験遊離値−自然遊離値)÷(最大遊離値−自然遊離値)×100
3. ウェル1〜3,4〜6,7〜9の成績は,エフェクター細胞と標的細胞の比率 (E:T)
が100:1,50:1,25:1の場合のNK細胞活性として表される。
4. 必要に応じて,各E:T比と%細胞障害性との間で回帰分析を行い,任意の細胞障害性
(例えば15%) として定義づけられる1 lytic unit (LU15%) に必要なエフェクター細胞数を求める。
E. 留意事項
1. 51Crの半減期は比較的短く約28日であるので,Na2Cr51O4は実験の日程が決まってから購入する
。
2. 最大遊離値を求めるために,0.1% NP-40の代わりに2M HClを使う研究者もいる。
3. 我々の経験では,SD系雌ラット (約10週齢) の脾臓細胞のNK細胞活性をYAC-1細胞を標的細胞に用いて測定した場合には,E:T比がそれぞれ100:1,50:1,25:1の条件で27〜39%,14〜25%,7.5〜14.5%の細胞障害性を示した。
4. 我々の経験では,免疫毒性試験の際に陽性対照物質として広く用いられているサイクロフォスファミドをSD系雌ラット
(投与開始時6週齢) に9mg/kgで28日間連続強制経口投与した場合に,サイクロフォスファミド投与群では対照
(溶媒投与群) に比べて約70%の%細胞障害性の低下を示した。
F. 参考文献
1. US EPA OPPTS (1997) Toxic Substances Control Act Test Guidelines; Final Rule. Fed. Reg., 62 (158), 43820-43864, Aug.15, 1997; 40 CFR 799.9780.
2. US EPA OPPTS (1998) Health Effects Test Guidelines. OPPTS 870.7800 Immunotoxicity. EPA Pub. No. 712-C-98-351