≪免疫毒性試験プロトコール 4≫

ELISA法を用いるラット抗ヒツジ赤血球抗体の抗体価測定法


1999; 4(1), 8-10


永田 雅史,中村 和市
塩野義製薬株式会社 新薬研究所

A.解説

ヒツジ赤血球(SRBC)は,通常マウスおよびラットに対して強い免疫原性を示すことが知られており,動物の体液性免疫反応によって化合物の免疫毒性を評価する際に免疫抗原として広く用いられている。これまで,SRBCで免疫した動物の特異抗体産生能を調べるには,脾臓細胞中の抗SRBC抗体産生細胞数を測定するPFCアッセイが一般的であった。しかし近年,この方法以外に酵素免疫測定(ELISA)法によって血清中の抗SRBC抗体価を測定することが試みられてきた。ELISA法では,血清の採取と,抗体価の測定を別の日に行うことができるので一度に多くの例数を処理することが比較的容易であり,また部分採血を行うことによって,抗体価の経時変化を個体レベルで観察することができる等の長所がある。

  ここでは,これまでに報告されてきたSRBC膜抗原の調製方法に改良を加えたものを紹介し,SRBCに対するIgMおよびIgGサブクラスの抗体価を測定する方法について述べる。

B.実験材料等

1.ヒツジ赤血球(SRBC)膜抗原抽出用試薬

1)A液:1mM Na2-EDTA/ 5mM Tris-HCl (pH7.0) Na2-EDTA 0.372gを5mMトリスアミノメタン塩酸塩緩衝液 (pH7.0) 1,000mlに溶解したもの。

2)B液:0.5M NaCl,1mM Na2-EDTA/ 0.05M Tris-HCl (pH 7.0)

NaCl 5.84gとNa2-EDTA 0.07gを0.05Mトリスアミノメタン塩酸塩緩衝液(pH7.0)200mlに溶解したもの。

3) C液:3M KCl
 精製水500ml中に,KCl(MW: 74.55)11.83gを溶解したもの。

4) D液:0.1w/ v%SDS
精製水10ml中に,ラウリル硫酸ナトリウム (SDS) 10mgを溶解したもの。

5) ヒツジ血液(アルセバー液保存)

6) ウシ血清アルブミン(BSA)

7) 生理食塩液

2.ELISA用試薬

1) 0.1M NaHCO3水溶液

2) Tween加PBS

10mMりん酸緩衝生理食塩液(pH7.2,PBS)中に,NaClを0.15M,Tween 20を0.01%となるように添加したもの。

3) 1%スキムミルク水溶液
 非特異吸着のブロッキング用。

4) アフィニティー精製ペルオキシダーゼ標識ウサギ抗ラットIgM抗体

5) アフィニティー精製ペルオキシダーゼ標識ウサギ抗ラットIgG抗体

6) 0.05%スキムミルク加PBS
 血清および2次抗体の希釈用。

7) 0.05% H2O2
市販の過酸化水素液(30%)を蒸留水で600倍希釈したもの。

8) 5-アミノサリチル酸(5-AS)発色液
 0.08%の5-アミノサリチル酸水溶液を0.2NNaOHでpH6.0に調整したもの。

9) 0.2および3N NaOH

10) オルソフェニレンジアミン(OPD)発色液
  OPD Peroxidase Substrate Tablet Set (Sigma,調整方法の詳細は添付書類を参照のこと)を用いて調製する。

11) 2N H2SO4

3.実験器材

1) 吸光光度計
2) 96穴マイクロプレート(Greiner社製,Nunc社製Maxisorpプレート等)

C. 実験操作手順

1.SRBCゴーストの作製1)

1) 100mlのヒツジ血液を冷却遠心(600g,15分間)した後,上清および白血球層を除去する。

2) 赤血球を生理食塩液で2回遠心(600g,15分間)洗浄する。

3) 赤血球を10倍量のA液に懸濁し,室温で15分間攪拌する。

4) 冷却高速遠心(25,000g,30分間)し,上清を捨てる。

5) さらに,赤血球と同量のA液およびB液(A液−A液−B液−A液−A液の順)で,冷却高速遠心(25,000g,10分間)による洗浄操作を行う。

2.SRBC膜抗原蛋白抽出

1) SRBCゴーストを5倍量のC液2)に懸濁させ,氷水中で60分間超音波処理する。

2) 冷暗所で2日間静置後,冷却高速遠心(25,000g,10分間)を行う。

3) 上清を除去し,沈殿物を等量のD液3)に懸濁させる。

4) 冷暗所で2日間静置後,冷却高速遠心(25,000g,10分間)を行う。

5) 一晩,上清をPBSに対して透析する。

6) BSAを標準試料とし,Lowry法によって蛋白濃度の測定を行う。
7) 抽出液を分注して-80℃で保存する。

3.ELISA

1) SRBC膜抗原を0.1M NaHCO3水溶液で希釈する(Greiner社製プレートを用いる場合は20μg/ml,Nunc社製プレートを用いる場合は2μg/mlに調製)。

2) 調製した抗原液を100μlずつ,マイクロプレートの各穴に加え,冷暗所で一晩静置する。

3) Tween加PBSで2回洗浄する。

4) 1%スキムミルク水溶液を200μlずつ,各穴に加え,室温で2時間静置する。

5) Tween加PBSで1回洗浄する。


6) 0.05%スキムミルク加PBSで血清サンプルの系列希釈を行い,100μlずつ各穴に加え,室温で2時間静置する。デュプリケートもしくはトリプリケートの実験を行う。

7) Tween加PBSで3回洗浄する。

8) 二次抗体(抗IgMあるいはIgG抗体)は,予め最適な希釈倍率を検討する。0.05%スキムミルク加PBSで希釈した二次抗体を,100μlずつ各穴に加え,室温で1時間静置する。

9) Tween加PBSで4回洗浄した後,基質による発色反応として以下の10)または11)を行う。

10) 5-AS発色液を100μlずつ各穴に加え,37℃で1時間静置する。反応停止は3N NaOHを100μlずつ各穴に加える。吸光度は波長550nm付近で測定する。

11) OPD発色液を100μlずつ各穴に加え,室温で30分間静置する。反応停止には2N H2SO4を50μlずつ各穴に加える。吸光度は波長492nm付近で測定する。対照波長を設定する場合には540nmとする。

D.結果の判定

1.一定の吸光度を示す血清希釈倍率を抗体価として計算するために,half maximumを与える血清の希釈倍率を求める。または任意の吸光度値(例えば1や0.2などを設定する)を示す血清の希釈倍率を求める4)

E. 留意事項

1.SRBC膜蛋白の抽出方法を比較した結果,3MKClによる抽出物よりも0.1w/v% SDSによる抽出物の方が非特異反応が弱かった。さらに,KClでの抽出後の残留物からのSDSによる抽出物の方がさらに非特異反応が弱い一方で,特異反応は強かった。

2.2%BSA+0.05% Tween20加PBS,2% BSA,10%ウマ血清・PBS希釈液および1%スキムミルク水溶液の4種類のブロッキング試薬を用いて,非特異反応のブロッキングの比較を行った。その結果,1%スキムミルク水溶液が最もブロッキング効果が高かった。また添加時間については1時間よりも2時間の方がより効果的であった。

F.参考文献
1.Marchesi, V. T. and Palade, G. E. (1967) The localization of Mg-Na-K-activated adenosine triphosphatase on red cell ghost membrances. J. Cell Biol., 35, 385-404
2.Van Loveren, H., Verlaan, A. P. J. and Vos, J. G. (1991) An enzyme-linked immunosorbent assay of anti-sheep red blood cell antibodies of the classes M, G, and A in the rat. Int. J. Immunopharmac., 13(6), 689-695
3.Galvin, J. B., Bice, D. E. and Muggenburg, B. A. (1986) Comparison of cell-mediated and humoral immunity in the dog lung after localized lung immunization. J. Leukocyte Biol., 39, 359-370
4.Temple, L., Kawabata, T. T., Munson, A. E. and White, K. L., Jr. (1993) Comparison of ELISA and plaque-forming cell assays for measuring the humoral immune response to SRBC in rats and mice treated with benzo 〔a〕pyrene or cyclophosphamide. Fundam. Appl. Toxicol., 21, 412-419