≪免疫毒性試験プロトコール 3≫

ラット骨髄細胞を用いるCFU-GM Assay


1999; 4(1), 6-8


河内 泰英
大鵬薬品工業株式会社 製薬センター安全性研究所
筒井 尚久
三菱化学株式会社 横浜総合研究所

A.解説

骨髄毒性を調べるには,末梢血を用い白血球数や赤血球数を測定する方法と骨髄細胞を用いる方法がある。本SOPは,骨髄細胞を用いin vitroの系で薬剤の影響を調べる方法を示す。

骨髄中には,顆粒球・マクロファージ系の前駆細胞であるcolony-forming unit granulocyte・macrophage(顆粒球・マクロファージ形成細胞;CFU-GM)や赤血球系の前駆細胞であるcolonyforming nuit erythroid(赤芽球系コロニー形成細胞; CFU-E)などが存在する。ここではそのうち,ヒトの骨髄毒性で最も重要で,しかも代表的なCFU-GMの培養法に関して記載する。試験物質の暴露法としてはin vivoで投与する方法と,無処置動物から採取した骨髄細胞にin vitroで処理する方法がある。

B.実験材料等

1.試薬および調製方法

1)α-MEM培養法

2)10%ウシ血清アルブミン(BSA)溶液
 以下に示す脱イオン処理を行ってから用いる。

 (1) BSA粉末10gを45mlの蒸留水に静かに重層する。

 (2) 4℃で一晩放置し,十分に溶解する。

 (3) Mixed Bed Resin (AG-501×8(D))を2g加え,時々振盪しながら2時間,4℃で脱イオンを行う。

 (4) ガーゼで溶液をこす。再度2時間,4℃で脱イオンを行う。

 (5) ガーゼで溶液をこし,液量を量る。


 (6) 蒸留水を加えて50mlとし,さらに,2倍濃度のα-MEM培養液50mlを加える。

 (7) 0.45μmミリポアフィルターで濾過滅菌し,適当に分注して-20℃で保存する。

3) ウシ胎児血清(FCS)
 非働化処理(56℃,30分)して用いる。血清の影響が大きいので,コロニー数,コロニーサイズなどを指標にロットチェックを行うのが望ましい。

4)10mM 2-メルカプトエタノール(2-ME)
4.3M の2-ME 0.1mlを培養液14.3mlに加え,良く混合して濾過滅菌しておく。用時調製とする。

5)造血因子(リコンビナントマウスGM-CSF)100-200ng/mlの濃度で培養液を希釈する。

6)3%メチルセルロース液

 (1)濾過滅菌した冷却蒸留水200mlおよび沸騰蒸留水300mlを用意する。

 (2)大型のスターラーを入れた2L用三角フラスコに沸騰蒸留水を約250ml注ぎ,メチルセルロース粉末(粘度1500cp)30gを加える。残りの沸騰蒸留水でフラスコの口や壁に付着した粉末を流す。

 (3)十分攪拌して粉末を溶解した後,冷却蒸留水を何回かに分けて加える。

 (4)2倍濃度の培養液500mlを加えて総量1000mlとする。

 (5)4℃で一晩ゆっくりと攪拌し脱気する。適当な量に分注し,-20℃で保存する。

7)溶血液
  必要に応じて溶血液を用いる。

 (1) NH4Cl830mgを蒸留水で100mlにする(0.16MNH4Cl)。

 (2) Triza base 2.06gを80mlの蒸留水に溶解した後,1N HClでpH7.65に調節し,蒸留水を加えて全量を100mlにする(0.17M Tris-HCl)。
 (3) 0.16M NH4Cl 90mlと0.17M Tris-HCl 10mlを混合し,0.1N HClでpH7.2に調整後,-20℃で保存する。

2.骨髄細胞浮遊液の調整

  摘出した大腿骨の両端をハサミで切断する。21G針を付けたシリンジに培養液を適量とり,一方の骨端に回転させながら針を挿入しフラッシングする。このとき,骨髄が逆に飛び出すことがあるので注意を要する。同様の操作を2-3回行い,骨髄細胞をほぼ完全に採取する。一度洗浄した後,必要に応じて溶血液を加え3分間静置し,さらに2回洗浄する。細胞を必要濃度に調整する。

C.実験操作手順

1.in vivoで試験物質を投与する場合

 1)培養開始前日に冷凍保存しておいたメチルセルロース溶液を解凍し,4℃で保存しておく。

 2)冷凍保存しておいた試薬を解凍し,必要に応じて濾過滅菌しておく。

 3)骨髄細胞浮遊液の細胞濃度を2-4×106個/mlに調製する。

 4)遠心管に下記の液を加え,混合する。容量は比率が同じであれば変更可能である。

細胞浮遊液 0.25ml
培養液 0.20ml
rmGM-CSF溶液 0.50ml
FCS 1.50ml
10% BSA溶液 0.50ml
10mM 2-ME  0.05ml
  3.0ml


 5)4)の混合液にメチルセルロース溶液を2.0ml加える。この溶液は粘性が高いので,2.5mlシリンジに直接吸い取って添加するのがよい。遠心管の蓋をして上下に激しく振盪し,内容物をよく混合する。数分間静置して気泡が抜けたら(完全に抜けなくてよい),35mm培養皿2-4枚に1mlずつ分注する。このとき,隙間のないように底全面に液を伸展する。

 6)90-100mmのシャーレ内に上記の培養皿を2個ずつ置く。シャーレ内が乾燥しないように,同時に蒸留水を適量入れた培養皿を置く。

 7)シャーレを37℃,5%CO2,湿潤下で7日間培養する。

 8)培養7日目に,倒立位相差顕微鏡で培養皿を観察する。40個以上の細胞から成る集塊をコロニーとしてカウントする。

2.in vitroで試験物質処理を行う場合

1)短時間処理の場合

 (1)2-4×106個/mlに調整した細胞浮遊液0.5mlに20%FBS含有培養液4.0ml,処理濃度の10倍濃度の試験物質を含む培養液0.5mlを加えて良く混和し,培養ボトルに移して,適切な条件下に置く。

 (2)4℃,1500rpm,5分間遠心し,上清を捨てる。

 (3)(2)と同条件で細胞を洗浄する。

 (4)最初の細胞濃度と同じになるように細胞浮遊液を調整する。
 (5)以後は,1.の方法に準拠して行う。

2)培養期間を通じて処理する場合

 1.(4)に示した混合条件のうち,"培養液"を"25倍濃度の試験物質を含む培養液"に変更する。その他は1.の方法に準拠する。

D.留意事項

1.35mm培養皿はグリッドライン入りを用いた方がカウントが容易である。

2.今回の条件下ではマクロファージ系のコロニーの割合が高いが,rhG-CSF(5ng/ml以上)を用いると,播種細胞数5×105個/mlで顆粒球系のコロニーの割合を高めることが可能である(松村ら,1996:第3回免疫毒性研究会講演要旨集,p37)。

E.参考文献

1.浅野茂隆,池渕研二.ヒト,マウス造血幹細胞および前駆細胞培養法.細胞工学.13,6,534-542,1994.
2.小川峰太郎,西川伸一.骨髄細胞培養法.新生化学実験講座12.分子免疫学T.257-264,1989.