immunotoxicology.jpg
title1.jpg
Non-category (寄稿・挨拶・随想・その他)
第21回学術年会シンポジウム 「次世代の免疫毒性研究を考える」を終えて
小池 英子1、中村 亮介2、 西村 泰光3、吉岡 靖雄4
1国立環境研究所環境健康研究センター
2国立医薬品食品衛生研究所医薬安全科学部
3川崎医科大学衛生学
4大阪大学大学院薬学研究科毒性学分野

第21回日本免疫毒性学会学術年会にて、シンポジウム「次世代の免疫毒性研究を考える」を企画、開催した。本企画は、昨年度、第20回記念講演シンポジウムが開催されたことを踏まえ、姫野先生から本学会奨励賞受賞者の企画によるシンポジウムが提案されたことに因る。企画に際し、本学会と免疫毒性学研究の今日までの歩みを振り返り、諸先輩方の多大な御尽力により免疫毒性学が大きく発展してきたことを再確認した。同時に、現在から将来の状況を洞察し、科学技術の発展が益々多様な環境物質を生み出していること、免疫機能と疾患との関わりについての新たな知見が蓄積されているという意見を共有した。それらの状況から、我々は更なる異分野の知識・技術を導入し免疫毒性学をより力強くする必要があり、疾患と免疫毒性の関連をこれまで以上に幅広く精査することが重要であるという結論に至った。それらの向上は、先端医薬を含めた異物に対する安全性の担保に寄与し、健康社会の確立に繋がるものと予想された。そこで、本企画シンポジウムでは、免疫毒性および毒性誘発メカニズムの「予測」・「探索」・「解明」・「応用」に資する研究に焦点を絞り、4 人の先生に御講演頂いた。

先ず、望月敦史先生(理化学研究所・望月理論生物学研究室)による「生命システムの動態をネットワーク構造のみから理解する」の御講演を拝聴した。御講演では、生体分子の複雑なネットワークにおける制御ネットワークの構造とダイナミックスとの関係についての理論が紹介された。Feedback vertex set等の理論により数理的に整理されることでネットワークの上位に位置する重要な因子が明示される様は、免疫応答に関わる膨大な分子の複雑な関係についての理解に繋がり、様々なOMICSから導かれた解析結果からの帰納に大きな力になるように感じられた。

続いて、「有機小分子と蛋白質の相互作用を直接的・間接的に検出する」という演題で、叶直樹先生(東北大学薬学部・合成制御化学)に、ケミカルバイオロジーの基礎から応用まで、幅広く御講演頂いた。叶先生らによる有機小分子化合物を官能基非依存的に固定化する独自技術は非常に応用範囲が広く、標的分子探索など、開発段階を含めた医薬品の免疫毒性評価にも適用できる可能性が感じられた。多くのバイオテクノロジーは高度化とともにコモディティ化が進んでいるが、研究ツールとしての分子自体を作り出すケミカルバイオロジーには、独自性の高い新たな研究分野を切り拓くポテンシャルを感じた。

続いて、後藤孔郎先生(大分大学医学部・内分泌代謝・膠原病・腎臓内科学講座)には、「肥満に伴う全身性炎症性病態における脾臓由来IL-10の役割」について、予防的観点を含めて御講演頂いた。肥満に伴う脾臓の抗炎症性IL-10合成能の低下が、全身性の慢性炎症発症の契機となっていることが示された。食事やライフスタイルの変化に伴う種々の慢性炎症性疾患の増加には、環境汚染物質の寄与も懸念されることから、影響およびメカニズム解明に向けた免疫毒性学研究の新たな展開の可能性を感じた。

最後に、石井健先生(医薬基盤研究所/大阪大学免疫学フロンティア研究センター)に、「ワクチンの副作用は予測できるか? 安全なアジュバントとバイオマーカー開発の新展開」という演題で、ワクチン開発の最前線をご講演頂いた。本講演では、長年使用されてきたアジュバントであるアラムの新たな免疫誘導メカニズムや、ワクチンの有効性・安全性を事前に予測し得るバイオマーカー開発についてご講演頂いた。予防治療としてのワクチンには、有効性は勿論のこと、高度に担保された安全性が望まれており、ワクチン開発にはまだまだ免疫毒性研究が必要な未踏分野が眠っていることを痛感した。エボラ出血熱の流行に観られるように、新興・再興感染症に対するワクチン開発は未だ開発途上にあり、ワクチン開発における基礎研究は、今後の免疫毒性研究の中心の一つになるであろう。

本シンポジウムを通じ、異分野の知見・技術を導入することで、これまでの免疫毒性研究が更なる発展を遂げる可能性をひしひしと感じた。諸先輩方が築かれた免疫毒性研究の礎をより発展させるために、自らの専門性と、分野横断的な研究を巧みに融合させ、新たな免疫毒性研究へと発展させたいと決意を新たにしている。

末筆ながら、未だ若輩者の我々に、本シンポジウムを企画させて頂きました理事長吉田貴彦先生、年会長姫野誠一郎先生を始めとする諸先生方に、心から感謝申し上げます。

 
index_footer.jpg