immunotoxicology.jpg
title1.jpg
Non-category (寄稿・挨拶・随想・その他)
第51回米国毒科学学会(SOT)への参加報告
手島 玲子
(国立医薬品食品衛生研究所)

 2012年3 月12-15日にかけて米国、サンフランシスコ市の国際会議場(Moscone Convention Center)で開かれた第51回米国毒科学学会(SOT)に参加し、13日夕方のSOT免疫毒性部会ISS(Immunotoxicology Specialiy Section)の企画する懇親会への参加及び14日午前中に企画されたISSと日本免疫毒性学会JSITの合同企画である「食品成分のアレルギー性並びに免疫調節機構について(The allergenicity and immunomodulatory effect of food substances)」に関するシンポジウムの座長をISSの副会長(vice president)でもあるLadics博士(Du Pond)とともに務め、討論を行いました。


筆者とLadics博士(2012.3.14 San Francisco にて)

 私は、SOTそのものへの参加が初めてで、今年1 月にやっとSOTのメンバーになったばかりの新米会員であり、不安を持って参加したのが実情でした。しかし、一度会場に入ると、約200名のSOT-ISSのメンバーの方のactiveで友好的な雰囲気の中、また、日本免疫毒性学会(JSIT)からも10数名の研究員が参加しておられることもあり、あまり不安を感じることなく有意義な時間を過ごすことができました。

 以下、準備段階から含めて、シンポジウムについて、詳しく述べてゆきます。

 まず、シンポジウムの企画を始めたのは、2010年秋になってからで、食物アレルギー関連のテーマで、パートナーとなっていただけるSOT-ISSのメンバーの方を推薦していただく必要があり、中村和市先生を通じて、Mitch Cohen博士に、Greg Ladics博士を紹介いただけるようにお願いしました。Ladics博士が快く引き受けてくださった関係で、演者の選択に移り、2011年1 月演者の決定をいたしました。その後、シンポジウムの要旨を作成し、Ladics博士に、SOT-ISSからSOTの方に提案を行っていただき、SOTから、7 月に決定との連絡をうけました。タンパク質のアレルゲン性の予測そのものに関するテーマは、すでにSOTのシンポジウムで企画されていた経緯があったために、「食品成分のアレルギー性並びに粘膜免疫調節機構について」というタイトルとし、食物中のアレルギー物質の性質だけでなく、食物成分による経口による粘膜免疫調整作用に関する演題も含めることとし、欧米の研究者の方が3 名、日本の研究者2 名で構成することとしました。

 昨年の千葉で開かれた第18回日本免疫毒性学会で、Ladics博士が、SOT-ISSからの交流研究員として来日され講演をされた時に期をあわせて、2012年のSOTシンポジウムで講演予定の新藤先生、中村亮介先生を交えて打ち合わせができたことも幸運でした。

 以下、3 月のSOTシンポジウムでの講演の内容について紹介します。

 1番目の演者は、オーストリアのウィーン医科大学のBreiteneder博士による食物アレルゲンの構造と機能との関連について(Structural and functional biology of allergenic food proteins) の講演があった。Heimo Breiteneder博士は食物アレルゲンの構造に関する専
門家で、IUISのAllergen Nomenclature(http://www.allergen.org)の責任者でもあり、アレルゲンタンパク質をその構造に基づいて分類すると幾つかの限られたpfam familyに分類できることを提唱しておられ、本講演でも、まず、食物アレルゲンのその構造の特徴についての解説が行われた。次いで、アレルゲンの中で、プロテアーゼ活性を持つもの、特定の糖鎖を有するものの例から、アレルゲンタンパク質そのものが、上皮細胞、樹状細胞に直接働きかける作用を有する可能性についても報告されました。

 2番目の演者は、ケンタッキー大学のEric Eckhardt博士で、経口感作へのトリグリセリドの影響 (Role of dietary triglycerides in the immune response to concomitantly ingested protein antigens)に関する研究発表がありました。食物中のアレルゲン物質は、経口で、他の食品成分と一緒に摂取されるため、食品中に存在する脂肪成分は、感作の成立並びに経口免疫寛容への影響を与えると考えられています。演者により、ピーナッツのような通常の食品に多く含まれている長鎖脂肪酸よりなるトリグリセリド(LCT)の小腸からの吸収は、小腸リンパの流れを活性化し、脂肪含量の高いchylomicron(リポプロテイン粒子)を腸細胞から分泌させ、さらに、このchylomicronは、経口摂取された抗原とともに腸間膜リンパ節に取り込まれることを示し、経口摂取したトリグリセリドの量が、摂取抗原の免疫応答に影響を与えると考えられるとの仮説が述べられました。また、マウスの実験から、LCTは経口免疫寛容を増強させるが、一方、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)の場合は、chylomicronの形成を促さず、IgE産生を誘導しやすいことを示唆するデータが示されました。

 3番目の演題は、オランダのDanon 研究所(ユトレヒト大学併任)のLeon Knippels博士によるプロバイオティクス(ビフィブス菌)とオリゴ糖(プレバイオティクス)による抗アレルギー活性(Anti-allergic ef fects of a specific mixture of oligosaccharides or combined with a probiotic strain( Synbiotics)についての講演であり、腸内細菌群が、子供の粘膜免疫の発達並びに食物アレルギーの発症に影響を及ぼすことを示唆する演題でありました。プレバイオティクスとしては、ヒトミルク中に大量に存在する非消化性のオリゴ糖(OS)の中から、共生細菌であるビフィブス菌の成長や活性を増強するOS鎖を選択した。このOS鎖並びにプロバイオティクスとしてのビフィブス菌の混合投与(Synbiotics)による免疫制御機構をin vitro, 動物実験で調べた結果が報告され、牛乳アレルギーマウスモデルでのアレルギー抑制効果が示唆されました。

 4番目の演題は、日本の食品薬品安全センターの新藤智子先生による食品による感作並びに免疫制御因子による惹起(Food Sensitization and its induction by immunomodulating factors)に関する講演で、マウスモデルへの食品成分の感作に関する内容でありました。詳しくは、新藤先生の報告を読んでいただきたい。

 5番目の演題は、国立医薬品食品衛生研究所の中村亮介先生によるin vitro惹起試験(In vitro provocation study)に関する講演で、ヒト化マスト細胞を用いた抗原特異的IgE抗体の測定法についての講演がありました。こちらの発表も、詳しくは、中村先生の報告を読んでいただきたい。

 以上、3 月14日に行われたSOT-ISS企画の食品と免疫に関するシンポジウムは、どれも新しい方法を取り入れた精力的で興味深い発表であったと思われます。

 免疫毒性という分野は、基礎と臨床をつなぐところに位置し、医薬品等の免疫抑制を対象にする研究に加え、免疫が過剰に働いて、引き起こされる副作用についても扱われるようになり、化学物質また、バイオ医薬品によるアレルギーに関する研究も多く行われてきました。一方、天然のアレルゲンに関しては、食物アレルゲンに関して、新しく開発されてくる食品のアレルゲン性の評価を行う必要等から、研究の進んできた領域で、食物の摂取経路が、腸管粘膜免疫系を介するという特徴を有しています。今後も粘膜免疫機構の解析は更にすすんでゆくものと思われ、免疫毒性の分野としても、動物モデルの開発、インビトロ評価系の開発等、国内外の研究者との活発な議論のもとで、研究が更に進展することが期待されます。

 今回、JSITからの交流研究員という立場で、SOT-ISSとJSITの交流に参加する機会を得、SOTでの貴重な体験ができたことに感謝いたします。両学会の交流、また両学会共催によるシンポジウムが今後も続くことを祈念し、また、私も、次年度以降もできうる限りSOT年会の方にも参加することを決意して、原稿のしめくくりとさせていただきたいと思います。

 
index_footer.jpg