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Non-category (寄稿・挨拶・随想・その他)
新理事就任にあたって
姫野誠一郎
(徳島文理大学薬学部衛生化学・教授)

 2010年10月1日より日本免疫毒性学会の理事を拝命いたしました徳島文理大学薬学部の姫野誠一郎と申します。微力ではありますが、日本免疫毒性学会の発展のために
尽力させていただきたいと思います。

 本研究室では、カドミウムをはじめとする金属の代謝と毒性発現機構の研究を行っています。また、ヒ素の毒性発現機構、および、免疫攪乱作用に注目して研究を行っています。実は、本研究室においてヒ素化合物の免疫攪乱作用を中心的に進めていた櫻井照明助教授は、2003年9月(当時は東京薬科大学に所属)に日本免疫毒性学会年会賞をいただき、その後、本研究室に異動して免疫毒性に関する一層の研究を進めていこうと張り切っていました。しかし、残念極まりないことに、2006年9月、第13回日本免疫毒性学会(倉敷)が開催されている最中にホテルで急逝いたしました。

 しかし、櫻井博士が本研究室に持ち込んだテーマであるヒ素との縁が切れることはありませんでした。櫻井博士が指導していた学生たちを元気づけながら、ヒ素の研究を再開しようとしていた矢先に、バングラデシュのHossain博士から共同研究の申し入れがありました。バングラデシュでは、経口感染症対策として多くの井戸が掘られ、飲料水、灌漑用水として活用されていますが、地下水をくみ上げている土壌がヒ素を含有していたため、広範囲にわたるヒ素汚染が起こりました。最新の報告によると、バングラデシュでは約5000万人がヒ素で汚染された井戸水を飲んでいる状況です。WHOは、現在世界最大の環境汚染問題であると位置づけています。ヒ素による中毒症状の中には、炎症、免疫応答の異常が関与している可能性のあるものが多く存在しています。

 我々はHossain博士との共同研究により、ヒ素汚染地の住民から毛髪、血液、尿などの試料を収集しつつ、ヒ素による免疫応答攪乱作用に関する基礎研究を進めています。基礎研究としては、マスト細胞やマクロファージを用いて、亜ヒ酸に比較的長期間曝露した際の遺伝子発現の変化、免疫応答機能の変化を追跡しています。マスト細胞は、これまで考えられていた以上に広範囲の生命現象にかかわっているとの指摘もあり、ヒスタミン遊離作用のみならず、サイトカイン産生能や血管内皮細胞の相互作用についても検討する必要性がありそうです。現在、マイクロアレイで見出したヒ素曝露に応答する免疫関連分子(S100タンパク質など)に注目して研究を展開しています。このテーマについては、まだまだ発展途上のテーマではありますが、将来的には、遺伝子、細胞レベルでの基礎研究と、環境汚染現場でのフィールド研究がつながるような研究をめざしています。

 近年、様々な免疫応答反応に亜鉛などの金属が深く関与していることが分子レベルでも明らかにされつつあります。今後、金属研究者の立場から日本免疫毒性学会に貢献できるよう尽力したいと考えておりますので、よろしくお願いします。
 
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