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Non-category (寄稿・挨拶・随想・その他)
新理事就任にあたって
久田  茂
(あすか製薬株式会社研究開発本部)

 平成22年10月から日本免疫毒性学会理事を仰せつかりましたあすか製薬(株)の久田 茂と申します。

 私は元々は遺伝学の講座で繊毛虫の遺伝学を専攻していましたが、現在の会社に入社後に、毒性病理担当および安全性試験の試験責任者として、がん原性試験、局所刺激性試験、免疫毒性毒性試験等の特殊毒性をメインに、一般毒性の試験にも取り組んで参りました。本年3月まで安全性研究部部長及びGLP運営管理者を計6年間務めましたが、この間は安全性試験の最終報告書や病理所見の確認をする程度で、毒性評価の実務にはほとんど携わりませんでした。本年4月からは部長・運営管理者の任を外れて、「現場復帰」して自ら鏡検も行っており、これが一番のストレス解消となっております。

 現在の会社に入社後に、実験動物の感染症診断を学ぶために国内留学しましたが、この時が感染免疫という形で免疫学に触れた最初の機会でした。医薬品の毒性評価の一環として免疫毒性の評価を始めたのが15年ほど前であり、ある薬物が示すグルココルチコイド作用の免疫毒性学的意義を検討したのが私にとっては最初の免疫毒性試験となりました。

 この時に、一般毒性試験において免疫毒性を評価するために必要な条件を検討し、現在では当たり前となっていますが、免疫系器官の領域ごとの半定量的評価に取り組みました。また、当時は病理組織検査とともに、フローサイトメトリーによるリンパ球サブセット分析が必須であろうと考えていましたが、その後の様々な経験から、脾臓等のフローサイトメトリーをルーチンで実施する必要はなく、通常のHE染色によりかなりの判断が可能なこと(必要ならばリンパ球サブセットの免疫染色を考慮すればよい)、及び免疫系器官の組織検査と末梢血のフローサイトメトリーの組み合わせがより有用である可能性が分かってまいりました。

 また、ICH免疫毒性試験ガイドラインでは、免疫毒性試験として基本的にはT細胞依存性抗体産生能の評価が推奨されていますが、当時は、SRBCやOVAを抗原として、ラットで細胞性免疫(遅延型過敏症反応)と抗体産生能を同時に評価できないかと検討しておりました。このようなこともあって、ICH S8免疫毒性試験ではエキスパートを務めさせていただきました。

 現在の私の関心は、新薬開発の早い時期に、新規の化合物が初めて動物に高用量で投与された場合に、動物が薬物に対して示す反応の全容を如何に早く把握するか、ということにあります。全身の器官・組織の病理組織検査や様々な毒性指標を総合的に評価することにより、免疫機能や生殖能への影響を含めて毒性作用の概要が把握できるだけではなく、想定していた薬理作用とは異なる作用が存在するを示唆する所見が認められることもあります。特に免疫系に関連したモデル動物の病理組織検査により、免疫系への作用が推測できることが多いです。全身の器官・組織の病理組織検査により、免疫系を含めて生体反応の全体像が見えてくる、ということは私にとって非常に楽しいことであり、また、このような情報を開発にフィードバックさせることにより、新薬開発の成功率が上がるのではないか、ということが今の私にとっての大きな作業仮説になっております。

 私はこのような日々を過ごしておりますが、免疫毒性学会の発展にも多少なりとも貢献したいと思っておりますので、どうか宜しくお願いいたします。
 
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