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Society of Toxicology 42ndAnnual Meeting参加記


2003; 8(1), 9-10


伊藤 智彦
独立行政法人国立環境研究所

平成13年3月9日から13日までユタ州ソルトレイクシティで開催されたSociety of Toxicology(SOT),42ndAnnual Meetingに参加してきました。今回のSOT参加は私にとって国際学会はもとより海外に出ること自体も初めてとあって,アメリカに行く前から非常に緊張と不安で一杯でした。ましてや3月はイラクとの戦争が始まりかけていた時期でもあって,アメリカ入国はかなり大変であるとの噂を耳にし,一層不安になりました。私は英会話が苦手なので以前から取り組もうとは思ってはいたものの,なかなか忙しいことを理由に避けてきていました。実際に国際学会参加が決定し,練習せざるを得ない状況にあって始めたものの,やはりというか実験の方が多忙を極めたためになかなか思うようにはいきませんでした。英会話は継続的な日頃の練習が必要で,本腰を入れて取り組まなくてはいけないという,当たり前のことなのですが改めて身をもって実感しました。

今回,SOTの会場となったユタ州ソルトレイクシティは2002年の冬季オリンピック開催で知られた都市で,そのことからもソルトレイクは寒いであろう,ましてや3月だったことから相当寒いはずであると予想していたのですが,実際に到着してみると非常に暖かくて驚きました。日本の冬よりは格段に暖かく,5,6月ぐらいの陽気でした。半袖半ズボンで歩いている方も見受けられました。会場のコンベンショナルセンターのあるダウンタウンは非常に小さく,歩いて全てを行き渡れる程度の大きさでした。またソルトレイクシティはモルモン教徒の地でもあり,非常に穏やかな都市でした。人口の約60%がモルモン教徒であるといわれ,ダウンタウンの北にモルモン教の総本山,テンプルスクエアがあります。建物は荘厳であり,敷地内には博物館の様なものや,時間の都合上聴くことは出来ませんでしたがコンサート会場もあり,とても興味深いものでした。

学会の方ですが,9日は演題発表がなかったのでホテルにチェックイン後,夕方からのwelcoming receptionに参加し,本格的な参加は10日からとなりました。今年のSOTでは現在の私のテーマであるダイオキシンの生体影響関連の演題は比較的大会後半に集まっていて,私のポスター演題がエントリーされたポスターセッション「TCDD&POPS」が最終日にあり43演題。同じく「TCDD&POPS」のプラットフォームが三日目にあり9演題。それ以外にもいくつかのセッションでダイオキシン関連の演題がありましたが,全体が約2000演題ということから考えると少ない印象がありました。また,時期が時期でもあるせいか,演題を取り消された研究者も結構いたようでした。大会前半は,自分が以前にテーマとしていた酸化ストレス関連や循環器系のプラットフォームがありましたので,興味あるということもありましたが,まずは慣れるということで参加しました。話している内容はスライドを見ればおおよそのことがわかるのですが,やはりアメリカ人の英語は速くて聞き取るのは困難でした。それに比べて中国人などのアジア系の人が話す英語は単語ごとにはっきりと発音してくれるので,私にとって非常にわかり易い英語でした。ポスター会場では質問をしましたが,文や単語が直ぐに出てこなく,紙に書いて相手に意思は伝えられたものの勉強不足をとにかく痛感しました。何とか自分の発表の日までに慣れようとしましたが,慣れるというよりも疲労感の方が先行してきてしまった感じでした。

さてSOTも最終日となり,いよいよ私のポスター発表になりましたが,6人の研究者の方々が聞きにきてくれました。ダイオキシンの免疫毒性の分野で有名なOregonState UniversityのDr. KerkvlietやVirginia CommonwealthUniversityのDr. Nagarkatti,前日に食事に誘っていただいたNorthwestern Universityの奈良橋先生,また若手の研究者も来てくれました。結果としては内容についての比較的簡単な話は出来ましたが,詳細な話が出来ず色々な意見や情報を聞くことが出来なかった点については反省すべき今後の課題になりました。

学会終了後には,自治医科大学の香山先生や食品医薬品研究所の小西先生,国立環境研究所から参加した先生方と食事に行きました。アメリカの食事は私にとってあまり合わないものでしたが,ステーキは流石に美味しかったです。しかし,味付けされたライスはどうしても慣れずに日本のお米が恋しくなりました。あと日本人にとっては量が多すぎで,ホットコーヒーをSサイズで注文したら500ccも出てきて唖然としてしまいました。



学会を終えて,初めての国際学会参加ということで苦い思いを多くしましたが,普段論文を読むことでしか知らない研究者の方々に実際に会って話をすることが出来たことは自分にとってとても貴重な経験となりました。このような経験は研究者としてだけでなく,それ以外の人生においても大きな経験となることでしょう。今後,行く機会がありましたら,なかなか思うようには行かないでしょうが,もっと余裕を持って参加し楽しみたいと思います。

最後にこの場をかりて,この度のSOT参加の機会の場を与えていただいた国立環境研究所の遠山先生および野原先生に感謝いたします。