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我国での21世紀の免疫毒性研究


2000; 5(2), 3


名倉 宏
免疫毒性研究会 代表幹事 
(東北大学大学院医学系研究科医科学専攻病理学講座)

 免疫毒性研究会は,2001年度より免疫毒性学会(仮称)として再出発することが総会で決定された。これまでの7年間にわたる研究活動を通じて,日本国内でも免疫毒性学は一つの学問領域として社会医学のみならず広く自然科学界や製薬業界,行政にも認知させることができ,その概念もほぼ定着したものと思われる。その研究体制や研究組織も整備されつつあり,研究会当初の目的はほぼ達成されたと考えている。しかし,免疫毒性研究は前臨床段階の研究や技術開発から,さらに国際的には免疫毒性試験のガイドライン化が行なわれつつあり,分子レベルでの基礎研究,および臨床医学や環境保健からの臨床応用が飛躍的に進んだ。日本でもこうした国際レベルでの研究の推進とその組織化,国民の健康福祉への貢献をはかるためにも現在の研究会組織では不十分といわざるを得なく,新しいミレニアムをむかえるにあたって,学会組織として充実を計ることが急務となっている。

 従来の毒性研究は,毒物が直接に生体の組織細胞に作用した結果惹起される代謝機能や形態変化を観察,検討する急性毒性あるいはいわゆる毒性学が主体となってきたが,近年毒物に対する生体反応とその結果引き起こされる組織細胞の傷(障)害といった慢性毒性が注目されている。前者が毒物の特徴的な化学構造とそれによる生体の構造機能の破壊が毒物の量に依存しているのに対して,免疫毒性は生体の感受性,すなわち,

免疫臓器組織の反応性や毒物が作用した記憶(概応)等が重要な影響を及ぼしている。それ故その基礎研究やその臨床や環境保健,薬剤の安全性試験への応用には,毒性学以外の免疫学の基礎研究者や臨床医学者へも研究の輪を広げる必要がある。

 その意味でも免疫毒性研究会の学会化は21世紀における日本での免疫毒性研究にとって必然であった。研究会会員の皆様にはその主旨と免疫毒性研究の現状を十分に御理解いただき,21世紀における免疫毒性研究とそれをささえる学会の発展のために,研究活動を推進されるとともに,建設的な御提言と御協力を切にお願いいたしたい。