≪Non-category (寄稿・挨拶・随想・その他)≫

急性薬物性肝障害モデルの免疫毒性学的再検証−サイトカイン介在性について


2000; 5(1), 5-7


北條博史
昭和薬科大学衛生化学研究室

はじめに

 代表的な薬物性肝障害物質である四塩化炭素やアセトアミノフェンが肝障害を起こす機構は、これらの化合物が肝ミクロゾームのシトクロムP-450により代謝活性化されてラジカルとなり、脂質膜の過酸化あるいはタンパク質や核酸と反応して肝細胞壊死を引き起こすためと理解されてきた。しかし最近薬物性肝障害の発現の過程にはいくつかの炎症性サイトカインが起炎的あるいは消炎的に関与する可能性が議論されている。ここでは、薬物性急性肝障害モデルにおけるサイトカインの役割に関する報告を整理し考察する。また起炎薬物の投与方法によってはartificialなサイトカイン誘導がみられた私達の実験例についても述べる。

薬物性肝障害におけるKupffer細胞およびサイトカインの炎症促進作用

 Kupffer細胞は肝に固着しているマクロファージ系細胞で、異物刺激により活性化するとサイトカインをはじめとする種々のメディエーターを産生する。薬物が肝細胞を障害するときKupffer細胞由来のこれらのメディエーターが関与するか否かについて、Kupffer細胞機能阻害剤を用いて調べられた。四塩化炭素あるいはアセトアミノフェン投与の一日前にマクロファージ機能阻害剤のGadliniumchlorideを投与すると、肝障害の顕著な減弱がみられた(1,2)。同様な結果は他のマクロファージ機能阻害剤でもみられたことから、Kupffer細胞由来メディエーターはこれら肝障害性薬物による肝実質細胞の壊死に促進的役割を果たすものと推測された。

Kupffer細胞で産生される炎症性サイトカインであるTNFαとIL-1αの薬物性肝障害への関与についてもかなりの研究報告がある。それらの中には、抗TNFレセプター投与によりラット四塩化炭素肝障害の減弱が起こり(3)、あるいは抗TNFα抗体や抗IL-1α抗体によりマウスアセトアミノフェン肝障害の減弱が起るなど、それらの多くはTNFαあるいはIL-1αが組織障害に促進的に作用することを支持している(4)。他方、炎症性サイトカインの薬物性肝障害促進作用を否定する報告もある。例えば、アセトアミンフェンを投与したマウスの肝においては肝障害の前にTNFαのタンパクとmRNAのいずれも発現が認められないこと、またTNFαおよびlymphotoxin遺伝子ノックアウトマウスと正常マウス間でアセトアミンフェンによる肝障害が同程度である(5)、というものである。しかし後者の実験のように、ある遺伝子をノックアウトしてその分子の生理的役割を調べる方法は、炎症反応過程で複数の作用点が示唆されるTNFα(6)の場合などでは、結果の解析が困難であり適当とはいえない。

 免疫介在性の急性肝障害モデルの障害機構にも言及すると、D-galactosamineと微量LPSの併用系ではTNFαが、Propionibacterium acnesによるprimingと微量LPSによるeliciting系では、TNFαおよび細胞障害性リンパ球 (NK, NK-T, CTL) の両者がアポトーシスを誘起することが示唆され、同様にT細胞マイトージェンであるconcanavalin (Con) A肝障害系でもTNFαがアポトーシスに介在するといわれている。四塩化炭素による肝細胞死はネクローシスによるものとされてきたが、最近部分的にはアポトーシスも起ることが報告されている。

薬物性肝障害におけるサイトカインの炎症抑制作用

 炎症は起炎刺激に始まり一連の反応が時間に依存して進行する。IL-6は当初TNFα、IL-1αと共に炎症促進性サイトカインと見なされたが、その後Con A肝障害を抑制することが報告され、さらに私達を含む複数のグループによりIL-6が四塩化炭素肝障害を抑制することが示された(7,8)。またIL-10に関してもD-galactosamine/LPS肝障害やCon A肝障害、および四塩化炭素肝障害を抑制する(9)ことが判明し、前二者については起炎性サイトカイン産生抑制が主な機序と説明され、後者ではコルチコステロン依存的にIL-6が誘導されるが、その炎症抑制機序は未だ明らかでない。

四塩化炭素の投与経路の違いによるIL-6の誘導とその肝障害修飾性

 私達は四塩化炭素の投与ルートの相違による組織障害発現とIL-6誘導性について検討してきた。その結果、1) 四塩化炭素の皮下あるいは腹腔内投与系では4〜8時間をピークに血中にIL-6が誘導されるのに対し、経口投与ではほとんど誘導されず、一方肝障害マーカー酵素の血中逸脱は経口投与系に比べ、皮下および腹腔内投与系では低いレベルである、2) 皮下投与系で四塩化炭素に対する溶媒コーン油を増加させるとIL-6の誘導は低下し、逆に肝障害が増悪する、3) 少量のdexamethasoneの前投与でIL-6誘導は顕著に低下し肝障害は増悪するなど、四塩化炭素によるIL-6の誘導と肝障害の間には密接な逆相関性が存在することから、この早期に誘導されるIL-6は肝障害の進展に抑制的に働いている可能性を推察している(10)。

おわりに

 薬物による肝障害機序を正しく理解することは、医薬品や環境化学物質の毒性評価あるいは抗肝炎薬の評価モデルの選択上重要である。本稿では、薬物性肝障害、特に四塩化炭素およびアセトアミノフェン肝障害が、薬物による直接的な組織障害だけでなく、同時に誘導されるサイトカインが炎症を促進的に、あるいは抑制的に調節する可能性を述べた。また四塩化炭素の投与経路によってはIL-6が高レベルに誘導され、これが肝障害に抑制的に働く可能性を示した。これら薬物性肝障害におけるサイトカインの関与についてはまだまだ不確定な部分が多く、今後さらに詳細に検討する必要がある。

参考文献

1. M.J. Edwards, et al. Toxicol. Appl. Pharmacol., 119, 275-279 (1993).
2. D.L. Laskin, et al. Hepatology, 21, 1045-1050 (1995).
3. M.J. Czaja, et al. Gastroenterology, 108, 1849-1854 (1995).
4. M.E. Blazka, et al. Toxicol. Appl. Pharmacol. 133, 43-52 (1995).
5. F. Boess, et al. Hepatology, 27, 1021-1029 (1998).
6. Y. Yamada and N. Fausuto. Am.J. Pathology, 152. 1577-1589 (1998).
7. M. Sato, M. Sasaki, H. Hojo, Arch. Biochem. Biophys., 316, 738-744 (1995).
8. A. Katz, et al. Cytokine, Cell.& Mol. Therapy, 4, 221-227 (1999).
9. M.G. Swain, et al. Am.J. Physiol. 276, G199-G205 (1999).
10. T. Kasakura, et al. XXVth Symposium on Toxicol. Environ. Health Sci.
抄録集p86 (1999).