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第3回Duseldorf免疫毒性シンポジウムに参加して 


1997; No.4, p1-3


藤巻 秀和
国立環境研究所

昨年10月18,19日の両日にドイツ北西部に位置する商業都市DuseldorfにあるD?seldorf大学のMedical Institute of Environmental Hygieneで行われたGleichmann教授主催の第3回免疫毒性シンポジウム(T cell reactions to drugs and their metabolites)に参加の機会を得た。

 本シンポジウムは,薬物あるいはその代謝産物のhaptenとしての情報の伝わり方やその情報が抗原提示細胞(APC)からT細胞へ,さらにその後のサイトカインを介した応答性へと流れる過程を討論することに焦点を絞り,14の講演と12のポスターセッションが行われた。ドイツ,アメリカ,カナダ,イギリス,フランス,スイス,スウェーデン,日本,ポーランド,オランダから50人強の参加があり,かなり深く掘り下げた活発な討論が行われた。特に,postdoctoralクラスの若手の質問が活発であった。



 図1に,今回のシンポジウムの焦点をまとめて模式図にしてあるが,薬物の中にはそのままhaptenとして生体の蛋白と複合物を形成し免疫応答を刺激するものと,prohaptenとして一度cytochromeP450,N-acetyltransferase-2,prostaglandin H synthaseなどの酵素処理をうけてからhaptenとして生体の蛋白と複合物を形成し,それが過敏反応や自己免疫反応の誘導に結びつくものがあり,それぞれの薬物について詳細な報告がなされた。

 私の関心は,有害大気汚染物質の作用機構にむいていたので,B(a)Pのような多環芳香族炭化水素が皮膚に接触するとAPC活性をもつランゲルハンス細胞により代謝をうけ,diol, quinone, phenolなどの代謝産物に変わり,それらに対する接触過敏反応が誘導されるという報告には非常に興味がそそられた。

 環境大気中には実にさまざまな有害物質が存在し,最近のアレルギー疾患の増加に結びついていることが示唆されている。現在,これら有害物質の長期低濃度の影響や複合影響をどのように評価するか,適切な評価手法が求められている。今回のシンポジウムへの参加は,焦点であるhaptenとして有害物質をとらえ,その詳細な初期の機構を解明することが新たな評価手法の開発につながるとの期待をいだかせてくれた。

 初日の夕食は,懇親会を兼ねて旧市街にある伝統的なレストラン「Tante Ann」でドイツワインを味わいながらドイツ料理のフルコースを満喫することになった。あいにくの雨で食後のライン川岸の散歩はできなかったが,研究情報の交換と有意義な雑談で日が替わるまで過ごすことができた。

翌日の昼にとった写真の紹介で今回のシンポジウム報告の締めくくりとしたい。