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<温故知新> −海外の目から教えられたもの− 


1996; No.3, p6


山口文恵
第一製薬梶@安全性研究所

 薬を世に出すには幾つもの評価を行う必要がある。生体での恒常性を保つためには神経,免疫内分泌,代謝系の各機能が働いているが,毒性分野においても免疫系への影響を確認するための動きがあり,欧米では免疫毒性試験法への提案が出されていることは周知のことである。一方,日本では従来から毒性評価のひとつに抗原性試験を挙げ,薬物アレルギーを予測する方向で実施されてきている。この試験については,承認申請での評価項目であるにもかかわらず,ガイドライン化が遅れている実態にある。

 さて,海外の企業と薬の共同開発を行う場合,日本での承認申請に向け,抗原性試験を実施する必要があることを示さなくてはいけないのだが・・・・・・。無論,「必要とされているのだから,必要なんだ!」ではあるが,特に低分子の化学物質が生体内で異物として認識され,抗体あるいは感作リンパ球が産生される可能性をアジュバント併用で評価するとの話は,彼等には理解し難く,???ばかりが浮かぶようである。説明すればするほど,免疫,アレルギーの基礎的な事項を実施すればいいではないかとの発言も飛び出すのであった。ところが,ある企業との開発候補品で抗原性試験陽性の結果が出て,その後,臨床試験でもアレルギーを疑わせる症状が見られたことがあった。これを契機にそれ以降の開発候補品では構造や作用機序を考慮した上で抗原性試験を積極的に評価しようとする動きとなり,「百聞は一見にしかず」で彼等のある程度の理解が得られたのであった。私自身もそれまでの経験から抗原性試験はヒトへの外挿性を考慮した時にはかなり乖離があるものと認識していた。しかし,臨床でアレルギー様副作用 (皮膚に限らず) が報告されている化学物質,医薬品について皮膚感作性試験を行うと陽性になる確率が高いことがわかってきた。こうしてレトロスペクティブに検討してみると,このような試験でもアレルギー様副作用を誘起するポテンシ−をある程度把握できる可能性が見い出されたと思うのである。古くから行われている試験ではあるが,方法のバリデーションを取るなど基礎的なことが十分に行われることで評価法として再認識出来るのではと思うこの頃である。

 今後,世界的には免疫毒性評価のガイドライン調和が図られていくものとされている。免疫系への影響はヒトへの外挿性を考慮した時にはかなり難しいものではあるが,臨床での副作用発現への糸口が得られる可能性がある評価ならば,日本独自の抗原性試験も広義の免疫毒性評価と捉え,レギュレーションのラインアップだからだけではなく,きちんとその意義を示すべきと改めて教えられたのであった。