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毒性学における免疫毒性研究会の位置づけ 


1996; No.2, p7-8


平野靖史郎
国立環境研究所,地域環境研究グループ

 私は,免疫毒性研究会の発起人でもなく,発起人の一人に声をかけられて本研究会に入会した経緯もあるので,一人のbystanderとして上記表題に関して意見を述べさせていただくことにする。毒性学を研究していて強く感じることは,アメリカにはSociety of Toxicology (SOT) があり,総合的に毒性学を扱う学会があるのに,国内にはSOTに相当する組織がないということである。これは,毒性学が比較的新しい学問体系であること,ならびに,研究者の出身母体により毒性学を扱ういくつかの別組織ができあがったことに起因しているものと考えられる。

 国内で毒性学に関する学会を,次のように分類することができる。

(1)日本衛生学会,産業衛生学会 (医学系)
(2)日本薬学会衛生化学部会 (薬学系)
(3)日本毒科学会 (医薬品関連の研究部門)
(4)その他の学会 (大気環境学会,環境科学会など)

これらを統合すれば,日本版のSOTらしきものができあがるはずであるが,当面はそのようにはならないであろう。拝察するに,免疫毒性研究会の会員の多くは上記学会のいずれかに所属されているものと思う。

 免疫毒性研究会が発足し,200名を越す会員が登録されるまでになったからには,やはり既存の学会では満足できない人たちの切なる期待があったはずである。一番大きな理由として,昨今の免疫学の著しい発展に刺激され,免疫担当組織や細胞を用いて毒物の作用機序や毒性評価を行っていた研究者が,より集約した形での討論を望んでいたことが挙げられるであろう。

 一方,免疫毒性を免疫学の一部として捕らえることはできないのであろうか。免疫毒性研究会の会員で日本免疫学会にも所属されている方も少なくないはずであるが,日本免疫学会が分子生物学を指向しているのに比べ,免疫毒性研究会の一部は薬の副作用に関するガイドラインの作製を目指している趣もあり,本質的には馴染まないものと考えられる。従って,免疫毒性研究会を免疫学と毒性学の間に位置すると考えるよりは,毒性学の一部であると考えた方がよさそうである。

 もう一度,毒性学全体から免疫毒性を考えてみたい。なにも諸外国の例ばかりを手本にする必要はないが,私が1年半ばかり所属していた米国環境保護局の健康影響研究所(Health Effects Research Laboratory) における研究組織を紹介して,今後の毒性学や免疫毒性学研究会のあり方について,私なりの意見を述べさせてもらいたい。

 HERLには次に示す5つの毒性研究部があり,契約研究者も含め各部50人程度のスタッフが組織だった研究をしている

1.発生毒性研究部 (Developmental Toxicology Division)
2.遺伝毒性研究部 (Genetic Toxicology Division)
3.神経毒性研究部 (Neurotoxicology Division)
4.人体影響研究部 (Human Studies Division)
5.環境毒性研究部 (Environmental Toxicology Division)

ところで,免疫毒性は環境毒性研究部の一つのブランチとして位置づけられており,あらためて毒性学の幅の広さと,毒性を理解する上での系統立てた概念の構築の必要性を思い知らされる次第である。

 毒性学研究では,ある薬剤や有害因子について,吸収や代謝などの基本データをはじめ可能な限り毒性に関する情報を得た上で,例えば免疫毒性ならば免疫学的手法を用いて研究を深く掘り下げる方が効率的である。

 理想論を述べさせていただけるなら,免疫毒性研究会が核となって毒性学を総合的に討論できる組織ができ,さらにその分科会として免疫毒性を専門的に討論できたらと考えているが,会員の皆様はどのようにお考えであろうか。