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免疫毒性研究会に期待すること


1995; No.1, p8


吉田貴彦
東海大学医学部環境保健学部門

 免疫毒性の概念は、有害因子 (多くの場合化学物質) が直接的に、または神経系や内分泌系などを介して間接的に免疫機構を標的として作用し、免疫機構が本来担っている異物の排除という生体防御機構上の重要な役割としての免疫応答を変容させ、生体にとって好ましくない状況が起こる事と定義されます。また、免疫毒性学が扱う具体的事象は、免疫応答の低下の結果としての易感染性や発癌、そして応答の亢進による自己免疫疾患の発症・増悪やアレルギー疾患の発症・増悪などが含まれます。一方、外来異物としての化学物質が抗原性を発揮し生体にアレルギー応答を起こすことも免疫毒性の範疇に入ってきます。このように広い範囲を扱う免疫毒性学ですが、免疫薬理学的な側面から免疫毒性学が発展してきた経緯があります。すなわち職業現場では感作性化学物質によるアレルギー応答、臨床現場では医薬品の副作用としての薬物アレルギーや、抗癌剤やステロイド剤など本来免疫機構に作用させるための薬剤による免疫抑制などが比較的古くから研究されてきました。従って、最近でも衛生・産業医学の分野では化学物質がアレルゲンとなる職業性アレルギーに、また毒性学の分野では医薬品による副作用に注意が向けられる傾向がありますが、免疫毒性研究会ではより広い見地から免疫毒性と取り組んでもらいたいと願っています。

 さて従来、日本では研究者が様々な領域でべつべつに免疫毒性学の研究をしていましたが、免疫毒性研究会の発足によって様々なバックグラウンドを持つ研究者が集い共通した問題意識を持って討論が行われるようになったことは大変に意義深いものと思います。私は環境保健、産業保健学の立場から免疫毒性の分野に足を踏み入れたのですが、我々の研究活動の中心である衛生学会、産業衛生学会からもより多くの研究者が参加することを望んでいます。衛生学会年次総会では2年前より免疫毒性学のセッションが開催されるようになり、また今年4月下旬に名古屋で行われた産業衛生学会年次総会の職業性アレルギー研究会において今秋に予定されている第2回免疫毒性研究会の予告をする機会が与えられ代表世話人の方からも今後の免疫毒性学領域との連帯の必要性が話されるなど、衛生学分野においても免疫毒性学に興味が持たれつつあることは大変心強いことです。今後、免疫毒性研究会に広い領域から多くの研究者が参加し盛んな討論が成され、日本の免疫毒性学がますます発展することを期待したいと思います。