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御挨拶
新時代の安全性の科学 −毒性免疫学−


1995; No.1, p1-2


名倉 宏
東北大・医・病理

 免疫毒性研究会が,日本毒学会の中の研究会として発足し,一年の歳月が経過したが,その間医薬品や化学物質,環境物質の安全性の予測といった実用面のみならず,新しい視点にたった生体の炎症免疫反応機構の解明という基礎科学面からも注目を集めてきた。免疫毒性学の意義は,毒物学のみならず薬学,免疫学,病理学,衛生学等広い分野の研究者によって認識され,今後の発展と一つの学問領域としての体系化に期待する声が寄せられている。

 最近,特に免疫毒性が注目を浴びるようになった背景には,免疫系に作用する医薬品が多くなったこと,抗癌剤やステロイドの他,移植医学の普及とともに,強力な免疫抑制剤が開発されたこと,さまざまなBRMや各種サイトカイン等,immunomodulatorが医薬品として評価を受けることになった等の環境変化があったこともあげられる。さらに,ごく一般的な化学物質が,単に酵素阻害等の細胞への直接的な障害作用ばかりでなく,免疫系との相互作用の結果,生体に望ましくない状況をひき起こす事実も明らかになってきた。しかし免疫系の機能はあまりに複雑で,その評価法も必ずしも確立していないし,このうえ,免疫系が自己,非自己の識別に依存した生体反応系であることから,動物実験には大きな制約がある。これらのことから医薬品や化学物質の免疫毒性の評価の体系化にはまだ長い道のりが必要と思われる。それにもかかわらず,免疫毒性学は,毒物学からも免疫学からも,新しい研究領域として脚光を浴びており,本研究会の発足の案内に記されているように,毒性免疫が新しい時代の「安全性の科学」として認知されつつあり,本研究会がその発展に大きく寄与するものと確信している。会員の皆様らの一層の御理解と協力,免疫毒性ならびに関連領域での御活躍をこころからお願いいたします。