≪免疫毒性試験の国際動向≫ ≪ICHガイドライン≫

米国トキシコロジー学会免疫毒性分科会との連携を目指して


2006; 11(1), 8-10


中村和市
塩野義製薬株式会社

2006年3月5日から9日までカリフォルニア州サンディエゴで開催された第45回米国トキシコロジー学会(SOT)年会に学会からの招きで参加する機会を与えられました。同学会への参加は2002年以来2度目ですが,今回はSOTの免疫毒性分科会において日本免疫毒性学会との強い繋がりを築くという使命を帯びたものでした。SOT免疫毒性分科会は,日本免疫毒性学会の活動に強い関心を持っており,当学会の英語版ホームページ,SOTのホームページとの相互リンク,SOT免疫毒性分科会ニュースレターへの寄稿などの要望も寄せています。最近SOTのホームページには日本免疫毒性学会のリンクを掲載していただいています。さらにSOTへの入会の促進,年会への相互参加,情報交換の活発化などにも大きな期待を寄せています。今回,その活動の一環として,SOT免疫毒性分科会長のDr. Ken Hastingsのご尽力で学会からお招きをいただき,意見を交換してまいりましたので御報告いたします。  

SOTの免疫毒性分科会は1985年に創設され,現在全部で21ある専門分科会の中でも最も古い分科会の1つです。分科会内にはプログラム委員会,行政委員会,賞選考委員会が設けられています。 

歴代の分科会長以下の通りです。

Dr. Jack Dean (1985-1986)
Dr. Loren Koller (1986-1987)
Dr. Donald Gardner (1987-1988)
Dr. Edwin Buehler (1988-1989)
Dr. Jerry Exon (1989-1990)
Dr. Peter Bick (1990-1991)
Dr. Albert Munson (1991-1992)
Dr. Nancy Kerkvliet (1992-1993)
Dr. Lawrence Schook (1993-1994)
Dr. Michael Luster (1994-1995)
Dr. Daniel Wierda (1995-1996)
Dr. Peter Thomas (1996-1997)
Dr. Scott Burchiel (1997-1998)
Dr. Kathleen Rodgers (1998-1999)
Dr. Judith Zelikoff (1999-2000)
Dr. Dori Germolec (2000-2001)
Dr. MaryJane Selgrade (2001-2002)
Dr. Robert House (2002-2003)
Dr. Thomas Kawabata (2003-2004)
Dr. Bob Luebke (2004-2005)
Dr. Ken Hastings (2005-2006)
Dr. Mitch Cohen (2006-2007)
Dr. Steve Pruett (2007-2008)‐予定
Dr. Jeanine Bussiere (2008-2009)‐予定 

第45回SOT年会が開催されたときの分科会長はDr. Ken Hastingsでした。ご存知のように,彼は米国食品医薬品庁において医薬品の免疫毒性を専門にしてきたわけですが,分科会長になって御自身環境化学物質の免疫毒性にも注目するようになったそうです。SOT免疫毒性分科会が,これまで環境免疫毒性学研究や職業性アレルギー疾患の予防に果たした役割は大きいと考えています。また在任中,ICH(International Conference on Harmonisation of Technical Requirements for Registration of Pharmaceutical for Human Use:日・米・EU医薬品規制調和国際会議)の免疫専門家作業部会(S8)に参加した際,分科会内の専門家から意見や示唆がすぐに得られたことに対して感銘を受けたとのことでした。 

今期,分科会長をDr. Mitch Cohen(New York Univ.)が引き継ぎました。彼は昨年の第12回日本免疫毒性学会学術大会にも参加したのでご存知の方も多いと思います。分科会長就任にあたり,次のような抱負を語っています。まず第一に,やはり日本免疫毒性学会との交流を深めたいと考えています。国際交流についてはSOTが各分科会に期待するところでもあり,SOT免疫毒性分科会が先鞭をつけたいとしています。今後,お互いの会合において人的交流を深めていくことを切に望んでおり,私が今回参加したのもその端緒という位置づけです。日本以外にも,中国,韓国,クロアチア,スロベニアや中国とも交流が芽生え始めています。日本免疫毒性学会ものんびりしていますと先を越されてしまうと思います。また分科会教育委員長であるDr. Judy Zelikoff(New York Univ.)からの提案を受け,教育の講師を事前に登録しておき,旅費などの支援も含めて大学や研究機関に派遣するシステムを構築したいとも述べています。さらに民間企業からの支援を得て,学生の学会参加などを支援する企画も立ち上げようとしています。 



SOT免疫毒性分科会の総会では,私もスピーチさせていただきました。日本免疫毒性学会の生い立ち,活動状況,学会員の内訳などについて話しました。また理事長は大沢基保 教授(帝京大学)であり,年会にはほぼ毎年海外からの研究者を招聘していることも述べました。今年は大槻剛巳 教授(川崎医科大学)が倉敷で,来年は吉野 伸 教授(神戸薬科大学)が神戸で学会長を務められることも述べ,学会参加さらには発表を呼びかけました。最後に,これまで日本が孤立していたことは否めないとし,また私のICHでの経験から国際的相互理解は重要と考え,国際的免疫毒性ネットワーク“International Immunotoxicology Network”の形成を呼びかけました。 

分科会総会では,2006年のCareer Achievement,Outstanding Young Investigator,Post Doctoral Presentation,Paper of the Year各賞の発表がありました。Career Achievement Awardは長年にわたり免疫毒性学の領域において貢献のあった者に贈られます。本年は宿主抵抗性を中心に環境化学物質のリスクアセスメント研究で知られるDr. MaryJane Selgrade(米国環境保護庁)が選ばれました。また免疫毒性研究あるいは免疫毒性試験に携わった期間が15年未満の若い人に贈られるOutstanding Young Investigator AwardにはDr. Greg LadicsとDr. Paige Lawrenceが選ばれました。優秀な研究発表を行ったポスドク研究生に贈られるPost Doctoral Presentation AwardにはDr. Maoxang Li(第1位)とDr. Fei Wang(第2位)が選ばれました。そして,論文の中で最も優秀なものにはPaper of the Yearが授与されます。本年はCastle Funatake, Nikki Marshall, Linda Steppan, Dan Mourich and Nancy KerkvlietがJ. Immunol., 2005, 175: 4184-4188 に掲載した“Activation of the Aryl Hydrocarbon Receptor by 2,3,7,8-Tetrachlorodibenzo-p-dioxin Generates a Population of CD4+CD25+ Cells with Characteristics of Regulatory T Cells”が選ばれました。なお今回惜しくも受賞は逃しましたが,日本免疫毒性学会の会員で今回のSOT免疫毒性分科会総会にも出席された国立環境研究所の野原恵子先生らの論文(Constitutively Active Aryl Hydrocarbon Receptor Expressed Specifically in T-Lineage Cells Causes Thymus Involution and Suppresses the Immunization-Induced Increase in Splenocytes. J. Immunol., 2005, 174: 2770-2777)もPaper of the Yearにノミネートされていました。ところで,Career Achievement Awardは来年から,今年の5月に逝去されたJoseph G. Vos先生(御自身も2003年に同賞を受賞されています)の御功績を称え,Vos Awardとなることに決まっております。 



今回特に分科会総会に先立ち開かれた幹事会にも出席させていただきました。冒頭,日本免疫毒性学会の大沢基保 理事長から託されたお言葉として,SOT免疫毒性分科会と日本免疫毒性学会の友好関係を発展させてゆきたい旨をお伝えしました。今後できれば日本免疫毒性学会のプログラム案をSOT免疫毒性分科会に提供し学会参加を呼びかけ,一方でSOT免疫毒性分科会への勧誘を進めメンバーの往き来を促してゆくことが提案されました。他にも様々な議題が話されました。例えば,今年Outstanding Young Investigator Awardには2名選ばれましたが,候補者は7名もいたそうです。そこで現在,免疫毒性研究あるいは免疫毒性試験への従事年数を15年未満から,かつてのように10年未満へと短縮することになりました。一方で,今回Student Awardに該当者がいなかったので,非常に残念であったようです。また幹事会には,今後とも学生とポスドクの代表も引き続き受け入れ,他の分科会のモデルとなるようにしたいとしています。 

第46回SOT年会は2007年3月25日から29日までノースキャロライナ州のCharlotteで開催されますが,免疫毒性分科会が主催する予定のセッションをお知らせいたします。なお,今後追加変更もあるかと思いますので,ご注意ください。

Allergy and Allergic Disease: A Primer for Toxicologists.
Immunogenicity of Protein Therapeutics: Assessment and Impact on Study Design and Interpretation.
Gene Expression and Immune System Susceptibility.
Current Issues in Developmental Immunotoxicology.
Immune Biomarkers in Alternative Species: Implications for Risk Assessment.
Application of New Concepts in Immunology to Old Problems in Immunotoxicology 



学会長主催のレセプションさらにはSOTの学会長であるDr. Kendall B. Wallaceのスウィートルームにも招かれ歓待を受け,学会に参加してから事の重大さ,任務の重さに気づいたというのが正直なところです。国や地域の枠を超えて,免疫毒性に関する知識,技術あるいは種々の情報が人の往き来とともにもっと自由かつ迅速にできればすばらしいことと考えています。日本国内で独善に陥り,我々の考えが理解されないまま終わってしまえば,大きな摩擦を生むことになりますし,折角の我々の努力や労力も無駄なものになってしまいます。International Immunotoxicology Network も,そういったところからの発想によるものです。まずは米国トキシコロジー学会免疫毒性分科会との連携を目指して少しでもお役に立ちたいと考えています。