≪免疫毒性試験の国際動向≫ ≪ICHガイドライン≫

医薬品の免疫毒性試験の国際調和ガイドライン作成のためのICH免疫毒性データ調査


2002; 8(1), 8-9


中村和市
塩野義製薬株式会社 新薬研究所

 医薬品の免疫毒性試験の国際調和ガイドライン作成のためのICH免疫毒性データ調査中村 和市(塩野義製薬株式会社)2002年2月7日のICH非公式免疫毒性専門家会議において、将来最終的にはICH国際調和ガイドラインを作成していくことが合意されたが、現行のガイダンス(あるいは案)の妥当性を評価するために、さらにデータを集めて解析することになった。本合意事項はICH運営委員会においても承認された。

これを受け、米国のある民間団体が医薬品の免疫毒性データに関する調査を企画するなか、日本製薬工業協会においても日本国内で調査を行う準備を始めた。しかし、その後日本製薬工業協会としては異なった質問による種々の調査を統合することの難しさなどを考慮しICHの枠内で統一した調査を提案する方針を固めた。そこで、久田 茂氏(帝国臓器製薬)を中心にチームを編成、調査票案を作成し、これを厚生労働省の「免疫毒性試験法の標準化に関する調査研究」班会議(分担研究責任者:澤田純一 国立衛研 機能生化学部長)においてご議論いただいた。また、欧・米の専門家にも送り意見を求めた。調査票に関する免疫毒性専門家間の議論がほぼ終了するなか、日本製薬工業協会は厚生労働省と共同で2002年9月12日のICH運営委員会会議において「医薬品の免疫毒性試験の国際調和ガイドライン作成のためのICH免疫毒性データ調査」の提案を行った。会議では秘密保持(化合物の特定)に対する懸念が示されたが、まず欧州医薬品庁、米国食品医薬品庁、国立衛研が各地域の所属会社から免疫毒性データを受け取り会社情報を切り離したのち、さらに国立衛研で再度秘密保持の最終点検を受け解析にかかることで合意が得られた。そして、2003年2月5日のICH運営委員会会議において調査の実施が正式に承認され、2003年3月28日には調査票がICH事務局を通じてICH各極の団体に送付された。

医薬品の非臨床安全性評価においては、反復投与毒性試験で体重、相対臓器重量(胸腺、脾臓、リンパ節、副腎)、血液(白血球数、リンパ球数)、血清イムノグロブリン、病理組織(骨髄、胸腺、脾臓、リンパ節、パイエル板、皮膚、肝臓、腎臓、副腎)や一般状態が調べられている。最近では、EUの免疫毒性ガイダンスに沿い免疫組織化学やフローサイトメトリーによって、胸腺、脾臓、リンパ節あるいは末梢血中のリンパ球サブセットの分布が調べられる場合も多いと思われる。さらに特異抗体産生能、NK細胞活性、遅延型過敏症反応、宿主抵抗性などの免疫機能が検討されることもあるであろう。本調査においては、これらの数値データをかなり詳細に求め、まず反復投与毒性試験における所見とフローサイトメトリーや各種免疫機能検査の結果との相関性を調べ、医薬品の免疫毒性評価におけるフローサイトメトリーや各種免疫機能検査の位置付けを行う。さらに、化合物によっては、臨床試験の段階に進んだり、また医薬品として既に上市されているものもあると思われる。このような化合物あるいは医薬品については、人における免疫毒性についても問い、非臨床免疫毒性試験の予知性にまで踏み込もうと考えている。

2003年5月30日には調査票の回収を締め切り、2003年7月15日から18日までの日程でICH非公式免疫毒性専門家会議が開催され、回収された調査票の解析を開始する予定となっている。また、2003年11月12日から15日にかけて大阪で開催されるICH6においては免疫毒性試験に関するワークショップが企画されており、本調査の進捗あるいは解析結果が報告される予定である。

大規模な国際的調査が実施されることになったが、まずは数多くのデータが集まることを期待したい。そして、本調査においてICH各極の免疫毒性専門家の間で科学的な議論がしっかりと成され、予知性が高く、かつ無駄のない評価手順の盛り込まれたICH国際調和免疫毒性試験ガイドラインが作成されることを願ってやまない。