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「環境化学物質によるアレルギー増悪機構 に関する検討」奨励賞受賞に際して
小池 英子
(独立行政法人国立環境研究所 環境健康研究センター)

 この度、平成24年度日本免疫毒性学会奨励賞を賜りました。このような栄誉ある賞を頂けたことは、私にとって大変光栄なことであると同時に、ご指導くださいました諸先生方、ともに研究活動を行い支えてくださった方々のお力あってのことと皆様への感謝の思いが尽きません。誠にありがとうございました。

 私の免疫毒性学研究との出会いは、大学の卒業研究に遡ります。外研先として紹介された(当時)国立環境研究所の小林隆弘先生の"大気汚染物質とアレルギー"というテーマに大変興味を持ち、お話を伺いに行ったことがきっかけで、その後大学院を通じてお世話になりました。学生時代は小林先生のご指導の下、O3やNO2等のガス状の大気汚染物質が呼吸器に与える影響と肺胞マクロファージの役割に関する研究を中心に行いました。大学院修了後は、PM2.5/DEP研究プロジェクトに所属し、PMおよびDEP、ナノマテリアルが呼吸器・免疫系に及ぼす影響とその機構解明を行いました。そして任期を終え一度研究所を離れたものの、縁あって現所属となり、現在も取り組んでおります環境化学物質が免疫・アレルギーに及ぼす影響に関する研究を行う機会を与えていただきました。ここでは、その一例として、受賞講演でもお話しさせていただいたフタル酸エステルに関する研究を簡単に紹介させていただきます。

 フタル酸ジイソノニル(DINP)は、ポリ塩化ビニル製品の可塑剤として汎用されている化学物質です。私達は、アトピー素因を有するNC/Ngaマウスを用いた検討により、DINP曝露がダニ抗原に誘発されるアトピー性皮膚炎を増悪することを見出しました。ここで注目したのが、炎症部位で増加したTSLPでした。TSLPは、樹状細胞の成熟や活性化、所属リンパ節への遊走を促し、Th2応答を誘導するケモカインであり、実際に、DINP曝露により所属リンパ節における樹状細胞数と抗原提示にかかわる活性化マーカーの発現が増加することも確認しました。そこで次に、骨髄由来樹状細胞(BMDC)を用いて、in vitroで詳細な解析を進めました。その結果、DINP曝露は、BMDCのTh2ケモカイン(TARC、MDC)の産生や、リンパ節への遊走に関わるケモカインレセプター(CCR7、CXCR4)、抗原提示に関わる分子(MHC class II、CD86)の発現を増強すること、さらにダニ抗原特異的な抗原提示機能とT細胞からのIL-4産生誘導も促進することを明らかにしました。また、DINP曝露が、脾細胞のIL-4産生を促進することも確認しています。以上より、DINPは、樹状細胞等の抗原提示細胞の活性化と直接的または間接的なT細胞の活性化を誘導し、Th2応答を促進することにより、アレルギーを増悪する可能性が示されました。現在は、環境化学物質の標的となる細胞種や細胞内分子の解明を目指し、環境化学物質の物理化学的性質との関係性も含めて検討しています。

 最後になりますが、この研究を進めるにあたり、ご助言をいただきました高野裕久先生、共同研究者である柳澤利枝先生、ご協力いただいた皆様に深謝申し上げます。今回の受賞を励みに、これを新たな出発として精進し、環境化学物質の詳細な影響機構の解明とリスク低減につながる研究へと発展させていきたいと考えております。今後も本学会の先生方のご指導ご鞭撻を仰ぎつつ、免疫毒性学研究に取り組んでいく所存ですので、何卒宜しくお願い申し上げます。
 
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