ImmunoTox Letter

第25回日本免疫毒性学会学術年会 年会賞
角化細胞におけるIL-17誘導性IκB-ζ発現機構の解析

室本竜太(北海道大学大学院薬学研究院 衛生化学研究室)

〔背景・目的〕
 サイトカインIL-17は免疫系活性化や炎症に伴いリンパ球などから産生される.IL-17は上皮細胞などに作用し増殖因子・ケモカインおよび抗菌ペプチド類を産生させることを通じて好中球や樹状細胞などの免疫細胞をさらに動員・活性化させる(図1).この免疫細胞-非免疫細胞間でのIL-17を介した相互活性化を含む一連の応答は真菌・細菌感染への生体防御機構を局所で増幅させる重要な反応である.一方,IL-17産生や応答の過剰は自己免疫症状を誘発させることが乾癬,多発性硬化症,関節リウマチ患者やこれらの疾患マウスモデルにおいて示されている.IL-17応答やその制御機構の理解は,新しい機序のIL-17阻害薬の開発を将来的に可能とし,IL-17が関与する自己免疫疾患等の治療選択肢の拡充に繋がると期待される.
 IL-17の作用を受けた角化細胞や,IL-17が関わる皮膚の慢性炎症性角化症である乾癬の病変部皮膚においては,IκB-ζというタンパク質の高発現が見られる.IκB-ζは転写調節機能を有する核タンパク質であり,乾癬病変部で発現亢進する遺伝子群の誘導に寄与することが我々の成果を含む研究で見出された1,2.IκB-ζ がIL-17によって起こる炎症反応に役割をもつことから,我々はこのIκB-ζの発現誘導機構の解析がIL-17応答メカニズムの理解に資すると考えて本研究で解析を進めた.また,我々はこれまでにJakファミリーチロシンキナーゼTyk2が乾癬のマウスモデル病態に役割をもつことを見出したが3,4,角化細胞活性化におけるTyk2の役割に不明点が多く残されていたため,本研究ではIκB-ζ誘導におけるTyk2の寄与にも着目し検証した.

図1 IL-17による角化細胞活性化とIκB-ζ
図1 IL-17による角化細胞活性化とIκB-ζ

〔実験方法〕
 BALB/c野生型マウスおよびTyk2欠損マウスを用い,マウス耳介にイミキモド5%含有クリーム 10 mgを連日塗布した.皮膚炎の評価はシックネスゲージを用いて耳介厚を測定するとともに組織を採取して遺伝子発現解析を行った.培養細胞を用いた解析ではIL-17応答性を示すヒト表皮角化細胞HaCaTおよびヒト子宮頸がん細胞HeLaを用いた.IκB-ζプロモータ領域配列の制御下に発現するルシフェラーゼレポーター(IκB-ζ promoter-LUC) を用い転写活性化への影響を調べた.mRNA転写後制御の評価にはIκB-ζ mRNA の3’非翻訳領域 (3’UTR) 配列をルシフェラーゼ(LUC) または 蛍光タンパク質 (Venus)の終止コドン下流に挿入したレポーター(LUC-IκB-ζ 3’UTRおよびVenus-IκB-ζ 3’UTR) を用い,ルシフェラーゼアッセイまたはフローサイトメトリーでIL-17応答性を計測した.リボヌクレアーゼRegnase-1およびIL-17シグナリングタンパク質ACT1をsiRNAでノックダウンしIκB-ζ mRNA量に対する影響を定量PCRで測定した.

〔結果〕
1.JakファミリーチロシンキナーゼTyk2がIκB-ζの発現誘導に役割をもつ.
マウスを用いてイミキモド誘発乾癬モデルを実施した.イミキモド塗布による皮膚炎は野生型マウスに比べてTyk2欠損マウスで有意に抑制された.野生型マウスへのイミキモド塗布によって炎症耳介組織ではIκB-ζを含むIL-17標的遺伝子の誘導が見られた一方で,それらはTyk2欠損マウスで有意に抑制された.Tyk2がIκB-ζ誘導に関与することが示唆された. 2.IκB-ζ遺伝子の転写および転写後制御には独立した制御が働く.
IκB-ζ遺伝子プロモータ活性を測定するレポーター構築IκB-ζ promoter-LUC,または3’非翻訳領域を介するmRNA安定性制御(転写後制御)を測定するレポーターであるLUC-IκB-ζ 3’UTR とともに,Tyk2発現プラスミドを細胞に導入し,IL-17の存在/非存在下に活性を測定した.その結果Tyk2過剰発現によりIκB-ζプロモータ活性が増強されたが,LUC- IκB-ζ 3’UTRの活性には影響がみられなかった.一方,IL-17刺激によってはプロモータ活性に影響が見られず,LUC-IκB-ζ 3’UTR の活性上昇が認められた.これらの結果より, Tyk2はIκB-ζ遺伝子の転写活性化に至るまでの段階に主に関与し,IL-17によるシグナルは主に転写後段階でmRNA安定性を高める役割をもつことが示された(図2). 3.IL-17によるシグナル伝達はRNA分解機構に拮抗しmRNA安定化を起こす.
IL-17シグナルによりIκB-ζ mRNAに対して起こる転写後制御の解析を進めた.リボヌクレアーゼ活性をもつRNA結合タンパク質Regnase-1の分解標的RNAのひとつとしてIκB-ζ mRNAが含まれることが報告されていたことから5,着目した.HaCaT細胞へのRegnase-1 siRNA導入によりコントロールに比べIκB-ζ mRNA量の増加がみられた.この増加はIL-17非刺激下において顕著であった一方,IL-17刺激下ではコントロールとRegnase-1ノックダウンとの間に有意差はみられなかった.これらの結果はRegnase-1によるIκB-ζ mRNA分解が細胞内で恒常的に起こっていること,また,IL-17シグナルにはそれを動的に解除する働きがあることを示唆した.さらにIL-17受容体シグナル伝達に特有のアダプタータンパク質ACT1のノックダウンによりIL-17誘導性のmRNA安定化応答は見られなくなった.また,IL-17応答性蛍光レポーターVenus-IκB-ζ 3'UTRの発現はRegnase-1過剰発現により抑制されるが,ACT1プラスミドを共導入すると有意に回復した.これらの結果から,IL-17にはACT1を介してRegnase-1の機能を抑制することでIκB-ζ mRNAの安定性を高める作用があることが示唆された.

図2 IκB-ζ 遺伝子発現における転写および転写後制御
図2 IκB-ζ 遺伝子発現における転写および転写後制御

〔考察〕
 以上より,効率的なIκB-ζ誘導が達成される過程には転写誘導ならびに転写後制御のいずれもが寄与しており,これらが両輪として協調することが重要であると考えられた.Tyk2を介するシグナル伝達経路は,それ自体はIL-17によって直接活性化されないがIκB-ζ遺伝子のプロモータ活性に寄与しIL-17刺激時のIκB-ζ誘導を下支えしている.IL-17によるシグナルはそれとは独立に転写後の段階においてIκB-ζ mRNAの安定性を高めIκB-ζ mRNAを蓄積させる.Tyk2を含むJakキナーゼ阻害や,ACT1が担うmRNA安定化作用の阻害はいずれも角化細胞を標的としてIL-17誘導性炎症を抑制するための有望な手段になりうると考えられた.
 またIL-17応答機構は化学物質による免疫毒性の標的になりうる.環境中に存在する多様な化学物質がIL-17作用を阻害したりミミックしたりすることは生体の免疫反応をかく乱し,真菌などへの防御応答低下や化学物質毒性発現の機序とも関連する可能性がある. preliminaryな実験結果ではあるが,ヒトへの慢性曝露が皮膚の角化や皮膚がんをもたらすことが報告されている環境化学物質が角化細胞に対してIL-17様作用,すなわちIκB-ζタンパク質増加やIκB-ζ 3’UTRを介するmRNA安定化を起こす結果が得られている.化学物質慢性曝露による皮膚毒性発現の分子機構の理解につながる可能性が示唆されることから,解析を継続していきたい.

〔参考文献〕

  1. Johansen, C. et al. IκBζ is a key driver in the development of psoriasis. Proc Natl Acad Sci U S A 112, E5825-5833, (2015).
  2. Muromoto, R. et al. IL-17A plays a central role in the expression of psoriasis signature genes through the induction of IκB-ζ in keratinocytes. Int Immunol 28, 443-452, (2016).
  3. Ishizaki, M. et al. Involvement of Tyrosine Kinase-2 in Both the IL-12/Th1 and IL-23/Th17 Axes In Vivo. J Immunol 187, 181-189, (2011).
  4. Ishizaki, M. et al. Tyk2 is a therapeutic target for psoriasis-like skin inflammation. Int Immunol 26, 257-267, (2014).
  5. Mino, T. et al. Regnase-1 and Roquin Regulate a Common Element in Inflammatory mRNAs by Spatiotemporally Distinct Mechanisms. Cell 161, 1058-1073, (2015).

〔謝辞〕
 この度,本発表を第25回日本免疫毒性学会の年会賞に選出していただきましたこと,誠に光栄に思います.年会長の野原恵子先生ならびに発表内容を評価頂きました選考委員の諸先生方に心より感謝申し上げます.私どもの研究には免疫毒性の観点での検討は十分とは言えず今後も引き続き努力して参る所存でございます.今後とも免疫毒性学会の先生方のご指導・ご鞭撻を頂戴できれば幸いでございます.本研究は北海道大学大学院薬学研究院衛生化学研究室で実施されました.研究室メンバーの皆様に深く感謝いたします.

〔自己紹介〕
 北海道大学大学院薬学研究院 博士課程修了(博士(薬学))後,同大学院薬学研究院 助教に着任.2016年4月より同大学院薬学研究院にて講師を務めております.サイトカインシグナル伝達の内在性制御機構ならびに外的因子(環境化学物質など)による影響を解明することで,免疫・炎症疾患の理解や治療法開発に繋げたいと考えて研究しています.

室本竜太先生
室本竜太先生