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≪第20回大会 年会賞≫
イソフラボン類によるIL-17産生増強作用
小島弘幸1、室本竜太2、高橋美妃2、 武内伸治1、松田 正2
1北海道立衛生研究所、2北海道大学大学院薬学研究院・衛生化学)

【目的】
 IL-17を特異的に産生するヘルパーT細胞群(Th17)の増殖・分化は、微生物排除などの自然免疫の一躍を担っている一方、乾癬や炎症性腫瘍などの自己免疫疾患に深く関わっている1,2)。この細胞分化を制御するマスター遺伝子として、IL-17遺伝子のプロモーター領域に結合することで、この転写活性化を促進するRetinoic acid-related orphan receptors αとγ(RORα/γ )やSignal transducers and activators of transcription 3(STAT3)が報告されている3,4)。特にRORは、核内受容体スーパーファミリーに属する転写因子であることから、低分子化学物質と反応するリガンド結合部位を有している。最近の研究5-7)では、IL-17遺伝子発現を負に制御するRORα/γ インバースアゴニスト活性を有する低分子物質が報告されており、これらは自己免疫疾患モデルマウスを用いた試験で病態形成抑制を示すことから臨床での応用が期待されている。
我々は、身の回りの環境に存在する化学物質がRORを介してTh17細胞分化に影響を与えるか否かを明らかにするため、様々な環境化学物質(農薬、可塑剤、難燃剤など)のROR活性に及ぼす影響を調べてきた。その結果、アゾール系殺菌剤のいくつかにRORα/γ インバースアゴニスト活性のあることを見出し、これらがIL-17遺伝子発現を抑制することを報告した8)。さらに我々は、様々な植物由来化学物質についても探索を行い、Biochanin Aなどイソフラボン類がRORγ アゴニスト活性を有し、IL-17A産生を増強することを見出した。本研究では、イソフラボン類によるIL-17A産生増強の作用機序をRORγ とSTAT3活性化の観点から検討した。

【方法】
 試験物質:イソフラボン類(Biochanin A [BA]、Genistein [GS]、Formononetin [FN]、Daidzein [DZ])を含む植物由来化学物質を試験に供した。RORγ レポーターアッセイ:RORγ 遺伝子及びレポーター遺伝子を導入したCHO細胞に試験物質を添加し、24時間培養後に産生されたルシフェラーゼの酵素活性を測定した。IL-17遺伝子発現の解析:EL4細胞あるいはマウス脾細胞に試験物質を添加培養し、刺激剤(PMA/ionomycin)処理によるIL-17遺伝子発現をRT-PCR法にて測定した。また、RORγ -あるいはSTAT3-targeting shRNA発現ベクターを導入したRORγ -knockdown EL4細胞とSTAT3-knockdown EL4細胞を用いた解析も行った。IL-17蛋白産生の測定:C57BL/6マウス脾細胞における化学物質のIL-17産生応答をフローサイトメトリーにより測定した。STAT3活性化の測定:リン酸化STAT3(Y705)に対する抗体を用いたWestern blot(WB)法により解析した。RORγ・SRC-1複合体形成の解析:RORγ 活性化に必須である転写コアクチベーターSRC-1との複合体形成に及ぼす影響をWB法により解析した。マウス投与試験:C57BL/6マウスにBA 100mg/kg を腹腔内投与し、その翌日に脾臓を摘出し、RT-PCR法にてIL-17A遺伝子発現を調べた。

【結果】
1 .RORγ活性に及ぼす影響
 レポーターアッセイにおいて、イソフラボン類にRORγアゴニスト活性を認めた。その強さはBA=FN>GS>DZであった。
2 .IL-17A遺伝子発現及びIL-17A蛋白産生に及ぼす影響マウス投与試験において、 BA投与群でコントロール群に比較して、脾細胞でのIL-17A遺伝子発現の増加を認めた。また、BAを含むイソフラボン類0.1〜10μMをPMA/ionomycin処理EL4細胞あるいは脾細胞に暴露したところ、用量依存的にIL-17A遺伝子発現の亢進が認められた。
さらに、BA暴露EL4細胞のIL-17A蛋白産生も亢進していることを確認した。
3 .RORγとSRC-1との結合に及ぼす影響
 RORγ とコアクチベーターSRC-1との相互作用はBA存在下で増強した。この作用はRORγ のAF2欠損型では認められなかった。
4 .STAT3チロシンリン酸化に及ぼす影響
 マウス脾細胞において、イソフラボン類暴露によりSTAT3蛋白の増減に影響を認めなかったが、リン酸化STAT3の増加を認めた。さらに、BAはSTAT3リン酸化の増強とともにRorc遺伝子発現を増強した。
5 .RORγ及びSTAT3ノックダウン細胞のIL-17A遺伝子発現に及ぼす影響
 RORγ -knockdown EL4細胞及びSTAT3-knockdown EL4細胞において、EL4細胞で認められたイソフラボン類によるIL-17A遺伝子発現の増強は認められなかった。

【考察】
 本研究では、IL-17A産生に対するイソフラボン類の影響を明らかにする目的で実験を行い、イソフラボン類がマウス脾細胞やマウスリンパ腫由来EL4細胞においてIL-17A産生を増強する作用を明らかにした。また、個体マウスへのBA投与実験で脾臓においてIl17a遺伝子発現の増強が観察され、新たに樹立したRORγ /STAT3恒常的ノックダウンEL4細胞を用いた解析では、BAによるIL-17A産生増強作用はRORγ 及びSTAT3の双方を介した機序を有することが明らかとなった。さらに、マウス脾細胞やEL4細胞の培養中にBAを添加することによりSTAT3の転写活性化機能促進に重要な705番目のチロシンリン酸化の増強が認められ、STAT3の転写標的であるRorc遺伝子発現が増強された。以上のことから、BAの主な作用のひとつはSTAT3チロシンリン酸化の増強によるSTAT3活性化であり、その結果、活性化STAT3による直接的なIL-17A産生誘導と、Rorc遺伝子発現を介した間接的なIL-17A産生誘導の両者が増強したと考えられた。BAで見られたこのような効果は他のイソフラボン類であるGS、FN、DZにおいても同様に認められたことから、このIL-17A産生増強作用はイソフラボン類が共通してもつ作用であることが示唆された。
 イソフラボン類のRORγ 活性化について、さらに詳細に機序を検討したところ、RORγ へのリガンド結合活性は認められなかった(別の研究データ)。しかしながら、RORγ と結合しそれぞれの転写活性を増強することが報告されている転写コアクチベーターSRC-1に着目し、RORγ との結合に対するBAによる影響を調べたところ、BA添加によって内在性SRC-1とRORγ の結合が増強することを認めた。この相互作用はRORγ のAF2領域を欠損した場合に認められなかったことから、SRC-1との結合にAF2領域が重要な役割を果たしており、BAがその結合の安定化に寄与している可能性が考えられた。
 イソフラボン類は特に大豆製品に多く含まれており、アジア人が日常的に食事を通して摂取している。イソフラボン類には多くの効用が報告され、エストロゲン作用を有することから閉経後の女性に対する保護効果や骨粗鬆症予防効果などが知られている。これまでに、DZがTh1分化を促進しTh2分化を抑制する報告9)やFN、DZやEquolがIL-4産生を促進し、IFN-γ 産生を抑制することが報告されており10)、イソフラボン類のTh1サブセットやTh2サブセットの機能への影響を解析した報告はあるが、Th17やその他のThサブセットの機能に対する報告はなされていなかった。このことから、本研究はイソフラボン類がTh17サブセットの機能を正に制御することを最初に報告した研究と考えられる。このことは、これらのイソフラボン類を用いてRORγ やSTAT3の機能を調節することで、IL-17A産生を制御できる可能性のあることを意味している。イソフラボン類は普段の食事から摂取していることや、イソフラボン類を配合したサプリメントや飲料が多く存在することから、安全性についてはすでに確立されている。IL-17Aは真菌・細菌感染防御を担うことから、後天性免疫不全症候群(AIDS)等の免疫機能が低下した患者に対してイソフラボン類を投与または摂取させることで、症状の改善が期待される。また、IL-17Aは自己免疫疾患増悪化に関与することから、IL-17A産生が病態形成に関連する自己免疫疾患患者に対してイソフラボンの摂取を控えるよう注意喚起することも可能である。このようなイソフラボン類によるTh17細胞調節を可能にするためにも、in vivo評価系での更なる解析が必要と考えられる。

謝辞
 このたびは第20回日本免疫毒性学会学術大会・年会賞を賜り、年会長の坂部貢先生をはじめ選考委員の諸先生方に厚く御礼申し上げます。我々は、環境化学物質による核内受容体を介した免疫毒性作用をテーマに研究を行っています。近年、様々な化学物質が核内受容体のアゴニストやアンタゴニストとして機能することが報告され、医薬品として臨床応用が期待される反面、これらの受容体を介して多種多様な毒性作用を誘発することも明らかになってきています。しかしながら、免疫系における核内受容体の役割は、Th17細胞系におけるRORやマクロファージ系におけるLXRなどの限られた領域で解明されつつありますが、未解明な部分が多く残されていると思われます。今後とも皆様のご指導ご鞭撻を仰ぎつつ、核内受容体をKey Wordにした免疫毒性研究に取り組む所存でありますので、何卒よろしくお願い申し上げます。終わりに臨み、本研究は日本学術振興会・科研費(24590773)の助成により行われたことを記します。

文献
  1. Harrington, L. E. et al. Interleukin 17-producing CD4+ effector T cells develop via a lineage distinct from the T helper type 1 and 2 lineages. Nat. Immunol. 6, 1123-1132 (2005).
  2. Stockinger, B., Veldhoen, M. Differentiation and function of Th17 T cells. Curr. Opin. Immunol. 19, 281-286 (2007).
  3. Yang, X. O. et al. TH17 lineage differential is programmed by orphan nuclear receptors RORα and RORγ. Immunity 28, 29-39 (2008).
  4. Zhi, C. et al. Selective regulatory function of Socs3 in the formation of IL-17-secreting T cells. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 103, 8137-8142 (2006)
  5. Huh, J. R. et al. Digoxin and its derivatives suppress TH17 cell differentiation by antagonizing RORγt activity. Nature 472, 486-490 (2011).
  6. Solt, L. A. et al. Suppression of TH17 differentiation and autoimmunity by a synthetic ROR ligand. Nature 472, 491- 494 (2011).
  7. Xu, T. et al. Ursolic acid suppresses interleukin-17 (IL- 17) production by selectively antagonizing the function of RORγt protein. J. Biol. Chem. 286, 22707-22710 (2011).
  8. Kojima H. et al. Inhibitory effects of azole-type fungicides on interleukin-17 gene expression via retinoic acid receptorrelated orphan receptors α and γ. Toxicol. Appl. Pharmacol. 259, 338-345 (2012).
  9. 戸塚 護:大豆イソフラボンがT型およびU型ヘルパーT細胞への分化に及ぼす影響、大豆たん白質研究14, 68-72 (2011)
  10. Park, J. et al. Formononetin, a phyto-oestrogen, and its metabolites up-regulate interleukin-4 production in activated T cells via increased AP-1 DNA binding activity. Immunology 116, 71-81 (2005)
 
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