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≪第14回大会 年会賞≫
経口感作および経口惹起によるマウスの食物アレルギーモデル
新藤智子1、金澤由基子1、古谷真美1
田面喜之1、小島幸一1、手島玲子2

1食品薬品安全センター 秦野研究所
2国立医薬品食品衛生研究所

1.目的
 我々は、新たな蛋白質のアレルギー性評価と食物アレルギーの機序解明のために、マウスの食物アレルギーモデルを開発した1)。本モデルでは、サリチル酸(SA)と共にリノール酸とレシチンの混合液(LL)を媒体として抗原をマウスに3週間経口投与すると、血清中に抗原特異的IgG1抗体価が検出される。また、抗原を経口惹起すると、鼻こすりや立毛に加えて呼吸困難やチアノーゼなどの重篤な全身性アナフィラキシーを発症する。卵白アルブミン(OVA)、ラクトグロブリン、グリアジンなどを抗原に用いるとアレルギーが誘導されるが、ペプシン(PEP)では誘導されず、抗原蛋白質のアレルギー性の有無によって異なる反応性を示す。経口投与で感作を誘導し、経口惹起で全身性アナフィラキシーを発症し、抗原蛋白質のアレルギー性を検出可能な本モデルは、動物を用いたin vivoのアレルギー性評価系として有用である。
 本モデルにおけるアレルギー誘導要因(SA併用、LL媒体およびアレルギー性蛋白質抗原)の摂取条件は、構成物質、用量および頻度ともヒトの生活環境においても再現し得る条件である。したがって、そのアレルギー発症機序を明らかにすることは、ヒトでの食物アレルギー増加の原因解明へつながるものと期待される。これまでに我々は、抗原の吸収や免疫系細胞による認識過程でのアレルギー誘導要因の影響を調べてきた。今回はCD4+細胞の増加とCD8+細胞の減少というポピュレーション変化を指標として、感作初期の情報が伝達される組織と時期の検索および本モデルのアレルギー誘導要因の関与を調べた。

2.方法
 7週齢の雌性BALB/cマウス各群12匹を用いて、1mgの抗原を1週間に2回の頻度で経口投与した。本モデルのアレルギー誘導要因を完全に満たすSA(0.3mg)併用下でLLを媒体としたOVA 投与群(SA/OVA/LL)を、SAを欠くOVA/LL群、生理食塩液媒体のSA/OVA/S群やOVA/S群、PEPを抗原としたSA/PEP/LL群と比較した。各群とも初回投与から1日および3日後(投与1回)、5日後(投与2回)および7日後(投与3回)に各3匹のマウスから、抗原接触部位に近い順にパイエル板、腸管膜リンパ節および脾臓を採取し、コラゲナーゼ処理によってそれぞれの細胞(PP、MLNおよびSL)を分離した。洗浄後のPPとMLN、赤血球を溶血させた後に洗浄したSLは1mLあたり2×107個に調整し、FITC標識抗CD4抗体およびPerCP標識抗CD8抗体で染色した。それぞれの細胞の割合はフローサイトメトリー(BD FACS Calibur,ベクトンディッキンソン)で調べ、各投与群のポピュレーションを無処置動物と比較して変化を評価した。

3.結果
 SA/OVA/LL群のマウスの各組織から分離した細胞のポピュレーションをFig.1に示した。PPでは、無処置群に比べたCD4+細胞の割合の増加とCD8+細胞の割合の減少は認められず、投与後の経時的変化も認められなかった。一方、MLNでは投与1日から7日後まで持続して無処置群に比べたポピュレーションの変化が認められた。SLでは投与3日後に減少したのち、5日以降は無処置群に比べたポピュレーションの変化が認められた。
 SA/OVA/LL群に認められた経時的なポピュレーションの変化は、OVA/LL、SA/OVA/SおよびOVA/S群のいずれにおいても認められなかったが、SA/PEP/LL群にはわずかに認められた。

Fig.1  Population of CD4 and CD8 lymphocytes from Peyer’s patch (PP), mesenteric lymph node (MLN) and spleen (SL) in SA/OVA/LL group mice
    *,**Significantly different from the values for naive (* p<0.05, ** p<0.01)

4.考察
 通常は経口摂取した蛋白質抗原には経口免疫寛容が働くため、アレルギー反応は起らない2)。本モデルでは、経口投与した抗原が腸管から吸収され、免疫系で認識され、アレルギー発症へと反応が進行する過程に、SA併用およびLL媒体がアレルギー性蛋白質とともに作用することによって、経口免疫寛容を破綻させてアレルギーを誘導していると考えられる。我々は、感作成立過程の反応においてこれらアレルギー誘導要因の関与を調べることによって、本モデルのアレルギー発症機序を明らかにすることを考えた。
 これまでに我々は、抗原の直接的な吸収を血清中への移行によって調べたところ、それぞれのアレルギー誘導要因を欠く群においても移行量に変化はなく、どの要因の影響も認められなかった。一方、抗原が最初に接触する腸管のパイエル板細胞では、OVAに比べてPEPのリンパ球の増殖活性が抑制されたことから、蛋白質種によるアレルギー発症の有無に、パイエル板における免疫細胞の反応が関与している可能性が示唆されている。
 そこで今回の実験では、先ず、パイエル板細胞に抗原が接触した後の免疫反応を進行させる組織と時期を検索した。感作成立後のマウスでは全身性の免疫を反映する脾臓のリンパ球はTh2優位であることから、CD4+細胞の増加とCD8+細胞の減少を指標とした。抗原認識においては蛋白質種による差が認められたパイエル板細胞では、指標としたポピュレーションの変化は認められず、免疫反応の進行の場としてのパイエル板の働きは少ないと考えられた。一方、ポピュレーションの変化が初回投与の1〜7日後に持続して認められた腸管膜リンパ節は、感作初期の免疫反応の場として機能している可能性が考えられた。また、初回投与の5日以降には全身性免疫組織である脾臓にもポピュレーションの変化が認められたことから、この時期には全身性に情報が伝達されるものと考えられた。腸管膜リンパ節および脾臓におけるポピュレーションの変化は、SA/OVA/LLとSA/PEP/LL群のみで認められたことから、SAとLLの併用によって引き起こされることが明らかとなった。しかし、マウスで感作の成立しないペプシンでも変化が認められたことから、蛋白質抗原による特異的な変化ではないと考えられた。以上のように、本モデルのアレルギー誘導要因であるSAとLLは、感作の早い時期に蛋白質の特異性に非依存的に、免疫組織のリンパ球の環境を変化させる働きによってアレルギーの発症に関与していることが示唆された。

5.謝辞
 日本免疫毒性学会におきまして、本研究について様々なご助言をいただきました諸先生に心より感謝いたします。

6.文献
1) 新藤智子,金澤由基子,斉藤義明,臼見憲司,小島幸一,手島玲子:経口感作および経口惹起によるマウスの食物アレルギーモデル.ImmunoTox Letter, 8-2:14-16 (2003)
2) Chehade, M., Mayer, L.: Oral tolerance and its relation to food hypersensitivities. J. Allergy Clin. Immunol. 115: 3-12 (2005)
 
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