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助成金受賞に際して
同窓会員の皆様
川崎医科大学 衛生学 大槻剛巳(6期卒業)

 予報を覆すような大雪の冬となり,積雪の多い地域の先生方のご苦労はいかばかりかと案じております。倉敷でも昨年12月に午前中だけうっすらと積もる日がありました。
私が現在所属しております衛生学教室は,望月先生,植木先生と引き継がれてきております。私は,元来,附属病院血液内科で研修を行い1996年春より意匠替えで植木先生が主幹されてらっしゃいました教室に入りました。教室の研究テーマは「珪酸・珪酸塩のヒト免疫系への影響」の検討というものでした。珪酸は SiO2,そして珪酸塩はこの [-SiO2-] をコアとして種々の金属が付いた塩となっているもので,代表格がアスベストです。教室としては,いわゆる珪酸曝露である「珪肺症(ちなみにじん肺法では,すべてじん肺であり珪肺とか石綿肺の区別はありませんが)」例における合併症としての自己免疫疾患(Caplan症候群は教科書にも良く出てきました)の病態解明が主体でした。石綿肺症の場合には,合併症は皆様ご存知のように肺癌や悪性中皮腫であり(勿論,現在国際がん研究機関(IARC: International Agency for Research on Cancer)は,結晶性シリカ(珪酸)自体も肺癌を起こす発癌物質としてグループIに分類しておりますが),免疫系への関与は少ないと考えておりました。しかし,最近の免疫学の進歩の一つである制御性T細胞の同定より,自己免疫の過剰と腫瘍発生は自己抗原認識クローンへの正反対の制御の破綻であると認識され,私たちはアスベスト/珪酸塩の免疫系への影響も最近では検討するようになってきておりました。

 さて,そのような時期に,昨年の6月末以来,所謂「クボタショック」に端を発したアスベスト禍が医学医療面のみならず社会的にも大きな問題となってきております。現在,既に悪性腫瘍を発症されてらっしゃる人々には臨床面でのアプローチと経済的な救済が行われ,また,今後の曝露防止については,それでも,官民一体となって早急な対応が施行されています。問題は,既に曝露されているかどうか,あるいは曝露はしているけれどどの程度か,そして潜在的な悪性腫瘍の発生が起こっているかどうか,こういった点が不明な方々に対して,予防医学としてそれぞれの状態を判断する指標を提示できるか,そして,腫瘍発生の前に天寿を全う出来るような分子予防標的を同定できるか,という面が,重要な課題であると思われ,我々の教室も精魂込めて検討している処であります。

 このような中で,今回,平成17年度住友財団環境研究助成,ならびに安田記念医学財団平成17年度癌研究助成を受けることになり,同窓会からもこれらの授与に際して一言挨拶を書けということを申し付かりました。何も昨年以来のアスベスト問題のクローズアップを受けて,このような研究の申請を行った訳でもなく,私たちは10年以上前より,このテーマに深くコミットして研究を継続してきているということ,それには,望月先生,植木先生という先達方の真摯な学問に対する姿勢が在ったこと,そのことをここに記させていただいて,研究助成授与の報告とさせていただきたいと思います。

 丁度,この雑文の掲載される会報が配布される3月末には宇部市での日本衛生学会ではアスベスト問題に関連したシンポジウムを行いますが,私もオーガナイザーとして参画しております。公開講座ではございませんが,興味のある先生にはご参加くだされば嬉しく思います。

 加えて,余談ではありますが,今年は9月に日本免疫毒性学会を倉敷芸文館にて主催させていただくことになりました。この学会は,免疫毒性が絡む病態,あるいは新薬の免疫毒性の検討などを中心に添える予防環境医学,薬学,製薬会社研究所,薬品食品等評価の国立機関の人たちが集まっている学会ですが,今年度は,日本産業衛生学会「アレルギー・免疫毒性研究会」も同時開催することにして,一般臨床の先生方のご来場にも期待したいと思っております。この号が出る頃には専用ホームページが開示になっているとは思いますが,教室のホームページ(http://www.kawasaki-m.ac.jp/hygiene/)にも紹介を入れ,リンクできるようにしております。是非,ご笑覧くださいますようお願いいたします。また,近隣の先生方には是非,ご参加くださいますよう,誌上をお借りしてお願い申し上げます。お問い合わせその他は,takemi@med.kawasaki-m.ac.jpあてにメールを下されば,お応えいたします。何卒,宜しくお願いいたします。
 
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